研究課題/領域番号 |
16K11654
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
帖佐 直幸 岩手医科大学, 歯学部, 講師 (80326694)
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研究分担者 |
下山 佑 岩手医科大学, 歯学部, 講師 (90453331)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 炎症 / SCRG1 / CCL22 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
本研究では、間葉系幹細胞(MSC)から分泌されたサイトカイン様ペプチドSCRG1が、マクロファージにパラクリンに作用して炎症ならびにそれに引き続く炎症性骨吸収を抑制することを明らかにする。本年度はマクロファージにパラクリンに作用したSCRG1が誘導するシグナル伝達経路を、in vitroの実験系において解析した。最初にマウスマクロファージ様細胞Raw264.7におけるSCRG1受容体BST-1の発現陽性をフローサイトメトリーで確認した。その後、Raw264.7をSCRG1で処理し、活性化されるシグナル伝達経路をMAPキナーゼを中心に抗リン酸化抗体を用いたウェスタンブロットで解析した。その結果、SCRG1はRaw264.7におけるERK1/2のリン酸化を増強した。興味深いことに、MSCの遊走促進時に主として活性化するPI3K/Akt経路はRaw264.7で活性化しないとともに、遊走能・増殖能・細胞接着能の何れも促進しなかった。ERK1/2シグナルは炎症性シグナルであるNFκB経路を制御する。そこで、LPSとSCRG1でRaw264.7を同時処理することで、炎症性サイトカイン・ケモカインの発現誘導への影響をプライマーアレイで解析した。その結果、SCRG1はLPS誘導性ケモカインCCL22の発現と分泌を有意に抑制した。この抑制効果はMAPK/ERK阻害剤であるU0126で解除された。CCL22は受容体CCR4を発現する単球やTh細胞を炎症の場に誘引する。即ち、SCRG1は炎症性細胞の集積を抑制することが示唆された。さらにSCRG1はケモカイン受容体CCR7の発現を促進した。CCR7は炎症性細胞の炎症巣からの退出やリンパ組織へのリクルートに必須な因子である。したがって、炎症の収束に伴ってマクロファージが消失するメカニズムにSCRG1が関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従って実施した結果、概ね期待される結果を得ることができた。本年度は特にシグナル伝達経路の同定に注力し、マクロファージにおいてSCRG1が誘導するERK経路を同定することができた。加えてSCRG1が間葉系幹細胞にオートクリンに作用する効果と、マクロファージにパラクリンに作用する効果が全く異なるとの新規知見を得ることができた。これらの知見は炎症巣における異なる細胞の複雑なサイトカインネットワークの存在を示唆しており、今後の進展が期待される。したがって、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、炎症の場に集積した間葉系幹細胞(MSC)から分泌されたサイトカイン様ペプチドSCRG1が、オートクリンにMSCのstemness維持と遊走促進に寄与するのみならず、マクロファージにパラクリンに作用して炎症ならびにそれに引き続く炎症性骨吸収を抑制することを明らかにする。加えて、MSCをセル・デバイスとする移植実験で、SCRG1による炎症抑制効果と歯周組織再生の両立を実現できるかを検証する。初年度にSCRG1が誘導するシグナル伝達経路を同定することができたので、次年度以降、同定されたシグナル経路を活性化するためのSCRG1機能ドメイン(SCRG1-FD)を探索し、組換えSCRG1-FDペプチドを作製して歯周炎モデルマウスへ投与する。このin vivo実験においてSCRG1投与による炎症抑制効果と炎症性骨吸収の改善を検証する。加えて、歯周炎モデルマウスへSCRG1遺伝子改変MSC(SCRG1を高発現またはノックアウトさせたMSC)を投与し、炎症抑制と歯周組織再生の両立を実現できるかを検証する。これらの結果を総合的に評価することで、軽度の歯周炎にはSCRG1-FDペプチドの投与、歯周組織の破壊を伴う重度の歯周炎にはMSCをセル・デバイスとする細胞治療の有効性ならびに臨床応用の可能性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際誌への投稿・査読ならびに掲載決定が2016年の年末から年度末の期間と重なったため、論文掲載料の為替の影響で差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
差額は2017年度の論文掲載料として使用予定である。
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