炎症抑制効果を有する間葉系幹細胞(MSC)と炎症担当細胞であるマクロファージ(Mφ)の相互作用は、炎症の収束において重要である。本年度は、MSCが分泌することで炎症抑制効果が期待されるSCRG1がパラクリンにMφに及ぼす影響に着目し、Mφにおけるサイトカイン関連遺伝子群の発現変動と走化性獲得について検証した。 マウスMφ様細胞Raw264.7をSCRG1で処理すると、14遺伝子で10倍以上の発現増加が認められた。また、マウス骨髄由来MSCと共培養されたRaw264.7の遺伝子発現を解析した結果、4遺伝子において100倍以上の発現増加が認められた。SCRG1処理で遺伝子発現の増加を認め、且つSG2との共培養で特異的に増加する遺伝子としてケモカイン受容体CCR7に着目した。Gタンパク共役型受容体であるCCR7を発現したMφはCCL19やCCL21に対して走化性を獲得する。SCRG1によるCCR7のmRNA発現をqRT-PCRにて定量的に解析した結果、12倍以上の有意な発現増加を認めた。さらにフローサイトメトリーにてRaw264.7に表出するCCR7の発現増強が確認された。そこで、SCRG1によってCCR7の発現が増強されたRaw264.7の走化性を、trans-well migration assayにて検証したところ、CCL19を添加した場合のみで遊走した細胞数が約3倍に増加し、走化性の有意な促進が認められた。 以上の結果から、SCRG1によってCCR7の発現が増強されたMφは、CCL19に対する走化性を特異的に獲得することが示された。すなわち、SCRG1はMφのリンパ組織由来ケモカインに対する反応性を高めることによりMφが炎症部位から退出するメカニズムに関与する可能性が示唆されるが、CCL19特異的な走化性の獲得の意義は明らかでなく、その解明は今後の課題である。
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