研究課題/領域番号 |
16K11660
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
吉成 正雄 東京歯科大学, 歯学部, 客員教授 (10085839)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 口腔インプラント / 生物学的封鎖 / 超親水性処理 / タンパク質吸着 / 上皮細胞 / 線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
インプラント周囲の生物学的封鎖を達成すべく、軟組織接着を促進する表面処理法として「超親水性処理法」を採用し、軟組織接着に最も適した超親水性処理法と最適な処理条件を探索することを目的とした。本年度は表面分析、細胞接着関連タンパク質の吸着特性とそのメカニズムの解明、上皮細胞付着特性を検討した。 1.表面濡れ性と表面エネルギー:直径13mm、厚さ1mmに切り出したチタン(JIS-2種)およびジルコニア(Y-TZP)基板に鏡面研磨を施し洗浄後に対し、紫外線処理および大気圧プラズマ処理を施し、表面濡れ性と表面エネルギーの測定を行った。その結果、処理群で接触角がほぼゼロ度の超親水性を示した。また、表面エネルギーも増加し、プラズマ処理群では極性成分が増加した。 2.光電子分光(XPS)分析:XPSによる表面分析を行った結果、上記処理群では炭素量の減少と水酸基の増加が認められた。したがって、上記の超親水性は疎水性炭化水素の減少と、親水性を有する水酸基の導入によることが裏付けられた。 3.タンパク質吸着特性の解析:チタンのおよびジルコニアをコーティングした水晶発振子センサーを用いて、細胞接着タンパク質の吸着特性を水晶発振子マイクロバランス(QCM-D)法にて定量的に評価した。その結果、上記超親水性群ではブロッキングを施してもタンパク質の吸着量が増加し、コンフォメーション(立体配座)を乱さない状態でタンパク質の吸着量が増加することが明らかとなった。 4.上皮細胞の動態解析:口腔上皮細胞(oral keratinocytes,HGEPs)を用いて細胞接着特性を評価した結果、処理群では未処理群と比較し初期細胞接着量が増加した。また、共焦点レーザ顕微鏡による蛍光免疫組織学的検索の結果、超親水性処理ではlaminin332、integrinβ4の発現が上昇した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表面濡れ性と表面エネルギー、光電子分光(XPS)分析による表面分析、タンパク質吸着特性の解析はほぼ終了し、満足した結果が得られた。 しかし、上皮細胞、線維芽細胞の動態解析が十分に検討されておらず、細胞接着メカニズムの解析と超親水性処理条件の最適化は未だ達成されていない。 さらには、インプラント埋入による動物試験を行う段階に至っておらず、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
1.超親水性処理法にエビデンスがあるかの検証:チタンおよびジルコニアに条件の異なる各種超親水性処理を施し、タンパク質吸着特性および細胞接着特性を評価する。結果を解析し、超親水性表面のどのような性状がタンパク質吸着、および細胞動態に影響を与えるかを解明することにより、本処理法にエビデンスがあるかを検証する。 2.軟組織接着を亢進する最適な超親水性処理法の検討:多くの超親水性処理法が提案されているなか、処理法によって軟組織接着の亢進に違いがあるのかを検証し、最適な処理法と処理条件を明らかにする。 3.最適化された超親水性表面での付着歯肉(上皮、上皮下結合組織)の動態解析:チタンおよびジルコニアインプラントをラットに埋入し、インプラント周囲上皮、結合組織の対象組織をレーザーマイクロダイセクション(LMD)にてサンプリングを行い、組織からtotal RNAを抽出しマイクロアレイ法にて網羅的な解析を行う。対照群と比較し実験群で変動を認めた遺伝子プロフィールの中から、ターゲットとなる遺伝子を選定し定量的RT-PCRを行うとともに、免疫組織化学染色にて組織内での発現と局在を検討する。さらに、付着歯肉(インプラント周囲上皮および結合組織)の半接着斑、コラーゲン線維の生成様相を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に研究を予定していたタンパク質吸着実験のうち、一部のタンパク質が海外からの納入が遅れ、研究を遂行できなかったために、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、年度の当初に昨年度遂行できなかったタンパク質吸着実験を終わらせる。
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