研究実績の概要 |
本研究では,純チタン試料上に原子層堆積(Atomic Layer Deposition;ALD)を用いてジルコニアまたはシリカの超薄膜を成膜し、同試料上における細胞増殖能を評価した。 使用した純チタン試料は、電子ビーム粉末積層造形(Electron Beam Melting;EBM)装置によって作製した。ジルコニアまたはシリカの超薄膜の成膜は、純チタン試料上にALD装置を用いて行い、成膜後はSTEMおよびEDS分析によりその状態を観察した。 純チタンおよび、ジルコニアまたはシリカ超薄膜を成膜した試料を30 mlの超純水中に浸漬し、浸漬1週および2週後にICP発光分析装置を用いてジルコニウムまたはシリコンの溶出量の測定を試みた。また、ALDによる成膜処理をした試料上での細胞増殖能の評価は、マウス線維芽細胞(L929)および、マウス骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を用いて、L929では培養1, 3, 5日後,MC3T3-E1では培養1, 4, 7日後に行った。 STEMおよびEDS分析において、ALDによるジルコニアの膜厚は約76 nmであり、シリカの膜厚は約65 nmであった。チタン、ジルコニウムまたはシリコンの溶出量を測定した結果、浸漬1週および2週後とも検出限界値以下であり、何れも純チタン表面上に化学的に安定して成膜されていることが分かった。細胞増殖試験において、L929の細胞数は何れの試料上でも経時的に増加しており、ジルコニアおよびシリカ超薄膜試料ともコントロールとほぼ同等であった。MC3T3-E1においてもL929と同様、何れも経時的に細胞数は増加しており、特に培養7日目のジルコニア超薄膜試料の細胞数はコントロールおよびシリカ超薄膜試料より有意に高い値を示した。 以上から、原子層堆積は純チタンの新たな表面処理法となり得る可能性があると考える。
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