研究課題/領域番号 |
16K11668
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研究機関 | 大阪歯科大学 |
研究代表者 |
今井 弘一 大阪歯科大学, 歯学部, 教授 (90103100)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | チタン / チタン合金 / 発生毒性 / in vitro / EST法 / インプラント / 表面処理 / フッ酸 |
研究実績の概要 |
ヒト胎児の催奇形性を予測できるEmbryonic Stem Cell Test (EST)法はドイツ連邦で開発され,欧州を中心に国際的なバリディーションで高い予知性が示されている.平成28年度の研究実施計画に基づいて,歯科用純チタンならびに歯科用チタン合金製の市販インプラント体に使用される基本組成金属のチタン,バナジウム,アルミニウム,ニオブ,タンタル,ジルコニウムの各元素について,それぞれ原子吸光光度計用の標準試験液を用いて元素イオンレベルで発生毒性のスクリーニングを行った.ES-D3細胞の細胞分化指標であるID50値,ならびにES-D3細胞と3T3細胞の細胞毒性指標であるIC50値の3つのパラメータを用いた.その結果,バナジウムは"weak embryotoxicity"を示した.他の金属イオンではすべて"non embryotoxicity"の範疇を示した.さらに,チタンとチタン以外のそれぞれの元素の2種のイオンを併せた状態でもEST法でスクリーニングを行った結果,バナジウムと他の元素を併せた場合でいずれも"weak embryotoxicity"を示した.さらに,市販のチタンインプラント断面上ならびに表面上にES-D3細胞を4日間培養したものからEmbryo bodyを作って通常のディッシュ表面で正常な細胞分化が確認できたが,JIS2種の純チタン板を用いて表面をフッ酸,塩酸,水酸化ナトリウムで処理したものを洗浄して同様にES-D3細胞を4日間培養し,Embryo bodyを作って通常のディッシュ表面で正常な細胞分化を確認した.表面処理しなかった場合と比べて水酸化ナトリウム処理と塩酸処理ではほぼ正常に細胞分化したが,フッ酸処理した場合には細胞分化がほとんど確認できなかった.なお,NaFなどフッ化物についての発生毒性も検討したが大きな発生毒性は認められなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発生毒性リスク面から安全性の高いインプラントが必要であるが,純チタンならびにチタン合金製インプラント体に使用される組成金属の発生毒性リスクは十分に解明されていないのが現状である.今回,歯科用純チタンならびに歯科用チタンおよびチタン合金製の市販インプラント体に使用される基本組成金属である,チタン,バナジウム,アルミニウム,ニオブ,タンタル,ジルコニウムの各元素について,発生毒性リスクについては,バナジウム以外は問題が見当たらないことが判明した.インプラント体に使用される金属イオン単体のみならず,バナジウムと他の元素イオンと併せて,発生毒性レベルの相加効果あるいは相乗効果を調べた場合でも,バナジウムイオン添加条件の場合に強い発生毒性ではなかったものの"weak embryotoxicity"の範疇であり,やや問題があることが判明した.また,チタン表面上でES-D3細胞を培養した場合では,表面処理しなかった場合と比べて水酸化ナトリウム処理と塩酸処理ではほぼ正常に細胞分化が認められたが,フッ酸処理した場合には細胞分化がほとんど確認できなかったことが判明した.今後,平成28年度の結果を基にして,さらに実験を重ねるとともに,フッ酸処理した場合についてのES-D3細胞の細胞分化への影響を詳しく調べる必要があることが考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果を元に,市販の純チタンならびにチタン合金,およびそれぞれの組成金属元素を用いて発生毒性を引き続き検討する.市販チタンについてダイヤモンド粒子とともに研削・研磨を行って研磨粉を作製する.研磨粉を希塩酸ならびにフッ化物を使用して培養液中に元素を溶出させて,メンブランフィルターによって濾過滅菌した後,EST法によって発生毒性スクリーニングを実施する.すなわち,ES-D3細胞用培養液,3T3細胞用培養液,ならびにiPS細胞用培養液に溶出液を倍数希釈して試験液を製作する.EST法またはEST法の改良法を用いて発生毒性レベルのパラメータであるID50値ならびにIC50値を調べる.なお,陰性対照として各培養液のみとする.また,エンドポイントとして,ESTオリジナルプロトコルである倒立位相差顕微鏡による心筋への細胞分化した結果である拍動の観察のみならず,ES細胞分化検出キット,ならびにアルカリホスファターゼ染色等も行い,評価結果の正確性に万全を期す.さらに,フッ素化合物の種類や添加濃度を変動させた条件での実験を実施する.すなわち,フッ酸やNaFなどのフッ化物を用いた場合の発生毒性リスクを検討する予定である.
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