研究課題
平成29年度の研究計画の通り,チタン合金(Ti-6Al-4V)および純チタンを希塩酸とフッ化水素酸に浸漬した.チタン板を濃度100%のフッ化水素酸に浸漬した場合,化学反応で急激に発熱し浸漬液が沸騰して危険なので,あらかじめチタン版を浸漬する適切なフッ化水素酸の濃度および浸漬時間を決定する必要があり,フッ化水素酸10%~50%の各濃度溶液に浸漬した.その結果,フッ化水素酸の10%溶液で12時間浸漬する条件とした.浸漬後,滅菌水で洗浄し表面を自然乾燥した.乾燥後のチタン版表面は光沢がなく暗灰色を呈していた.なお,対照群は酸無処理群とした.歯科用ダイヤモンドポイントを低速で回転させて金属表面の研削粉100mgを培養液10mLに入れ37℃で4日間静置浸漬した.なお,対照群は腐食していない金属版を用いた.浸漬液は0.2μmで濾過滅菌を行った.各浸漬液を培養液で倍数希釈して各試験液とした.EST法によってES-D3細胞用培養液,3T3細胞用培養液,ならびにiPS細胞用培養液に倍数希釈して試験液を製作する.その後にESTプロトコルに従って発生毒性レベルのパラメータであるID50値ならびにIC50値を調べ,さらに,アルカリホスファターゼ(AP)活性を調べて細胞分化を評価した.結果から純チタン,チタン合金ともに,希塩酸よりフッ化水素酸溶液でチタン版表面を腐食させた場合に,ES-D3細胞とiPS細胞の細胞分化に大きな影響を与えた.さらに3T3細胞を含めて各細胞の細胞生存率にも大きな影響があり強い細胞毒性が確認できた.なお,3%過酸化水素溶液および1%NaFでは純チタン,チタン合金ともに影響は認められなかった.
2: おおむね順調に進展している
化学物質による発生毒性リスクがあれば正常なヒト新生児誕生に障害となることから,安全性の高いインプラント材料が必要であるが,純チタンならびにチタン合金製インプラント体に使用される組成金属の発生毒性リスクは十分に解明されていないのが現状である.平成28年度に,歯科用純チタンならびに歯科用チタンおよびチタン合金製の市販インプラント体に使用される,チタン,バナジウム,アルミニウム,ニオブ,タンタル,ジルコニウムについて調べた結果,バナジウム以外はリスクに問題がないことが判明した.また,バナジウムと他の元素イオンと併せて,発生毒性リスクレベルの変動を調べた場合でも,バナジウムイオン添加条件の場合に強い発生毒性ではなかったものの"weak embryotoxicity"の範疇であり,やや問題があることが判明した.平成29年度は,チタン合金(Ti-6Al-4V)および純チタンを希塩酸とフッ化水素酸に浸漬して,無処理群とした.歯科用ダイヤモンドポイントで研削粉を作り培養液に浸漬した浸漬液とその倍数希釈液を用いて,ES-D3細胞,iPS細胞を分化培養し,発生毒性レベルのパラメータであるID50値ならびにIC50値を調べ,さらに,アルカリホスファターゼ(AP)活性を調べた結果,純チタン,チタン合金ともに,希塩酸よりフッ化水素酸溶液でチタン版表面を腐食させた場合に,ES-D3細胞とiPS細胞の細胞分化に大きな影響を与えた.さらに3T3細胞を含めて各細胞の細胞生存率にも大きな影響があり強い細胞毒性が確認できた.また,過酸化水素溶液とNaFでは純チタン,チタン合金ともに影響は認められなかった.
平成29年度の研究成果を元に,市販の純チタンならびにチタン合金を用いて発生毒性を引き続き検討する.純チタンならびにチタン合金について歯科用ダイヤモンドポイントで研削片を作製する.なお,歯科用ダイヤモンドポイントの研削片のみでも対照として発生毒性の影響を検討する.純チタンならびにチタン合金の研磨粉をフッ化水素酸のみならず,他に過酸化水素ならびにNaFについてもそれぞれの溶液濃度を変更して表面の腐食生成物の発生毒性について検討する.また,平成30年度は研究成果の総まとめとともに,平成28年度,平成29年度の研究成果をさらに細部まで検討して,不十分なところは再度実験を実施して,今後,さらにインプラント体のみならずアバットメント,上部構造などを含めて使用される材料についても,今後,ヒトの発生毒性への影響について調べる必要があるかどうか検討する.
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
J Oral Tissue Engin
巻: 15 ページ: 159-164
doi.org/10.11223/jarde.15.159
巻: 15 ページ: 35-40
doi.org/10.11223/jarde.15.35