研究課題/領域番号 |
16K11669
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐藤 淳 北海道大学, 歯学研究院, 講師 (60319069)
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研究分担者 |
北川 善政 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (00224957)
大賀 則孝 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (40548202)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 咀嚼筋 / 自律神経 / 交感神経 / 副交感神経 / 口腔顎顔面痛 / 慢性疼痛 / 舌痛症 |
研究実績の概要 |
口腔顎顔面疼痛(OFP)の慢性化は社会問題になっているが、その原因には交感神経活動が関与していると考えられている。近年では心電図を用いた「心拍のゆらぎ」を応用した周波数解析により、自律神経の評価を行える。今年度は症例数を増加して32例となった。慢性OEP患者さん13例、および慢性疼痛がないコントロール群19例を対象に自律神経活動を測定した。男性18例、女性14例で、年齢は30歳~77歳であった。心拍数は、54~105/分(平均値:76.9±11.9)、副交感神経活動を表す高周波数帯域(High Frequency; HF, 0.15-0.5 Hz)は4.3~566.9 (平均値:150.3±137.4)、低周波数帯域(Low Frequency: LF, 0.04-0.15Hz)は10.44~3556.06 (平均値:541.4±738.5)、交感神経活動の指標であるL/Hは0.41~11.41 (平均値:4.22±3.26)であった。対象の年齢と測定因子の関連は心拍数、L/Hには有意な関連は認められなかったが、HF (P = 0.01)およびLFは (P = 0.03)それぞれ年齢が高い群で有意に高かった。性別と有意に関連が認められたのは心拍数のみ(P = 0.04)であった。OFP患者群とコントロール群の比較では、心拍数は有意差を認めなかった(P = 0.92; 77.3±14.3 vs. 76.6±10.4)。HF(P = 0.002; 77.4±110.4 vs. 200.2±133.9)およびLF(P = 0.008; 179.3±154.8 vs. 789.2±873.9)はコントロール群で有意に高かった。L/Hは有意差を認めなかった (P = 0.95; 4.09±3.14 vs. 0.41±10.0)。研究前の仮設ではOEP患者群では自律神経活動のうち、交感神経活動が亢進して、慢性疼痛が持続していると考えていたが。交感神経活動には有意な差は認めなかった。コントロール群の方が患者群に比較して副交感神経活動が有意に亢進していることが改めて明らかになった。相対的にはOFP患者群では交感神経活動が亢進しているという理解になると思われるが、直接的には副交感神経活動が影響していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の課題を踏まえ外来患者さんおよびコントロール群を積極的にリクルートして対象者数を増加することができた。しかし慢性疼痛に長期間苦しんでいるにもかかわらず、患者さんに今苦しんでいる慢性のOFPと自律神経の関連の可能性を説明しても予想外にうまく伝わらず、さほど興味を持ってもらえないことがあった。本来、本研究に是非参加して欲しい重症のOFP患者さんほど、研究の参加に興味を示さなかったという結果になった。 データをみると、やはり年齢や個人でのHF値、LF値などの自律神経活動の指標値のばらつきが大きく、測定時間、環境の影響が関与している可能性は否めない結果となった。今年度は極力測定時間を午前中に統一するように画策したが、外来患者さんのアポイントを研究のみの都合で決める事自体が倫理的に問題があり、どうしても測定時間や環境にばらつきが生じて、課題が残った。 全体からみるとまだ症例数が少なくきちんとした結果は導き出せなかったが、OFPに対する治療が奏功している患者さんほど研究参加に協力的で、診療中もリラックスしている傾向が認められた、これらの点は今後の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度はさらに症例数を増加させて、平成29年度までの結果の裏付けをとるようにしたいと考えている。またOFP患者群とコントロ-ル群とで年齢差や性別の割合いの差が生じてしまい、結果の解釈におけるバイアスになる可能性を残している。今後は症例の組み込みの際に均一になるように調整していきたいと考えている。 予備的に同一対象(コントロール群)の日内変動および日を変えての自律神経活動の測定を行った。実際には個人内の日内変動はさほど目立たなかったが、測定日により、同一被験者でも予想以上にばらつきが認められた。各対象は当然その日によって、体調や心理状態も異なることから、自律神経活動も様々な環境因子などにより変化することが裏付けされた。平成29年度までの測定に嗅力していただいた患者さんやコントロ-ル群の方に再度測定を依頼して、自律神経活動の治療後前後の比較や時間経過による変化を確認していく。 星状神経節ブロックは代表的な交感神経ブロックの手技である。本研究においては、ブロック注射は頸部への針の刺入という侵襲があり合併症もあるために、代替治療法として星状神経節へのソフトレーザ-照射を組み入れている。臨床的には慢性OFP患者さんに対するソフトレーザ-治療は効果が認められる。しかし本研究の結果からOFP患者さんとコントロール群には交感神経活動というよりは、副交感神経活動に有意差が認められた。このことは、OFP患者さんの交感神経活動の抑制のみならず、副交感神経活動を活性化する方策が必要と考える。 平成30年度は本研究の最終年度になるので、今までの研究結果などを発表して論文投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が403240円生じた。OFP患者さんの診断・治療の中で最近問題になっているのは智歯抜歯後やインプラント術後などに生じる末梢感覚神経損傷による「神経障害性疼痛」がある。その病態の把握には系統だった知覚検査がまずは必要である。その重要さが国に認識され、平成30年度から口腔顎顔面領域の三叉神経ニュ-ロパチ-に対して精密触覚機能検査が保険収載された。本検査は本研究と密接に関連している。前年度の繰り越し金は精密触覚機能検査に必要な検査キットの購入などにあてる予定である。また今年度は本研究の最終年度になるために、関連学会で研究打ち合わせを行い、発表していく予定である。
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