研究課題
顎関節症患者の顎関節痛は、関節円板等の周囲組織への機械的侵害刺激が疼痛の原因であると考えられてきた。その理由は、関節腔を裏打ちする滑膜表層に神経終末が存在しないためと言われてきたが、実際の臨床では、顎関節腔洗浄やステロイド注入で滑膜組織の炎症を抑えることにより疼痛が和らぐことがある。よって、顎関節症患者の疼痛に滑膜組織の変化が関連し、滑膜組織から深部の神経終末に疼痛伝達を行う機構が存在している可能性が考えられる。本研究の目的は、顎関節症患者の滑膜組織の組織変化をつきとめ、滑膜組織内での疼痛伝達機構を神経伝達物質の存在などに着眼して解析し、顎関節症患者の疼痛の本質をつかむことである。これまでの研究で、ラットにおいては正常顎関節の構造が生後30日前後で完成されることが明確となった。さらに、この時期の滑膜表層細胞は重層化し、一部の滑膜表層細胞が細胞修復蛋白のHsp25陽性を示し、加えて基底膜細胞が有するラミニン蛋白も細胞膜に有していることが明らかとなった。またこれらの細胞とは別に、偽足用突起を有する貪食様細胞が滑膜表層のわずか深部に存在し、これら2種の細胞が層構造を形成していることが明らかとなった。その後、過大開口による異常顎関節モデルを作成して滑膜組織の観察を行ったが、予想に反し正常滑膜組織と組織学的な差が見いだせず、過大開口の頻度を増やす試みを行ったところ、異常顎関節モデルでは滑膜細胞層の重層化が増した組織学的変化が認められた。一方、滑膜組織内にて神経伝達物質の観察も行ったが、過去の報告や予想に反し、正常および異常顎関節モデルにおいても、神経伝達物質は免疫組織学的に観察されなかった。以上より、顎関節症患者の顎関節痛に滑膜組織の組織変化は関係しているが、神経伝達物質による疼痛伝達ではなく他の伝達機構が存在する可能性が示唆された。
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新潟歯学会誌
巻: 49 ページ: 5-12
甲北信越矯歯誌
巻: 27 ページ: 37-44