研究課題/領域番号 |
16K11703
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
鳥海 拓 愛知学院大学, 歯学部, 講師 (40610308)
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研究分担者 |
本田 雅規 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (70361623)
磯川 桂太郎 日本大学, 歯学部, 教授 (50168283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経堤細胞 / ヒトiPS細胞 / シュワン細胞 / 分化誘導 / 末梢神経再生 / 下歯槽神経損傷 |
研究実績の概要 |
末梢神経損傷後にはシュワン細胞が軸索伸長や再髄鞘化に関与するため、末梢神経再生に対するシュワン細胞移植の有効性が報告されている。しかし、シュワン細胞を得るには、正常な神経組織の採取と大量培養が必要となり、自家におけるシュワン細胞の供給には限界がある。そこで、シュワン細胞は神経堤細胞に由来することから、iPS細胞から誘導される神経堤細胞に着目し、ラット下歯槽神経損傷モデルへ移植することで感覚機能の回復と軸索再生への有用性を検討する目的で研究を進めた。 理化学研究所より購入したヒトiPS細胞(253G1)をBajapaiらの方法により神経堤細胞へ誘導し、中空性担体の内壁に1.0 × 10*6個播種して2日間培養した。動物実験モデルには7週齢の雄性SDラットを用い、全身麻酔後、右側顔面皮膚および咬筋を切開して下顎骨を露出し、ラウンドバーで骨を一層開削し、下歯槽神経を明示した。下歯槽神経に長さ4mmの欠損部を作成し、細胞を播種した中空性担体を埋入した。なお、ラット坐骨神経から採取したシュワン細胞をコントロールとした。 移植後、下唇への侵害機械刺激に対する逃避反射閾値を経日的に測定した結果、神経堤細胞移植群では移植3日目に、シュワン細胞移植群では7日目に閾値の低下を認めた。なお移植13日目には両細胞群とも同程度の閾値を示した。また移植14日目にラットを安楽死させ、担体中央部横断切片の組織学的および免疫組織化学的解析を行った。両細胞群で担体内部に軸索の再生を認め、神経堤細胞移植群の担体中央部横断切片では、ヒトミトコンドリアおよびS-100βに共陽性の細胞を認めた。また、ニューロフィラメント200陽性線維数は両細胞群で有意差はなかった。 本研究の結果よりヒトiPS細胞由来神経堤細胞は移植部で生着し、損傷した末梢神経の軸索再生を誘導し、感覚機能の回復に有用である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、今年度~次年度にかけてiPS細胞から誘導した神経堤細胞をラット下歯槽神経損傷モデルへ移植して逃避反射閾値の測定と組織学的および免疫組織化学的解析を行なう予定であった。本研究では下歯槽神経損傷部位に神経堤細胞を移植すると、ポジティブコントロールのシュワン細胞よりも早い時期に逃避反射閾値が低下し、移植14日目の担体中央部横断切片ではニューロフィラメント200陽性線維数がシュワン細胞と同程度に認めた。また同切片では、ヒトミトコンドリアおよびS-100βに共陽性の細胞を認めたことから、移植した神経堤細胞は移植部で生着していることを確認し、感覚機能の回復と損傷末梢神経の軸索再生に関与している可能性を示唆することができた。なお、ラットシュワン細胞は当初購入する予定であったが、Wang HBら(2012)の方法を参考に、ラット坐骨神経からシュワン細胞を採取して本研究に使用した。ラットシュワン細胞はS-100βおよびGFAPに陽性を示すことを確認している。 またin vitroの実験において、ラットシュワン細胞の培養上清で神経堤細胞を培養し、軸索誘導に関連する遺伝子発現解析をプライマーアレイにて実施した。神経堤細胞の培養液をコントロールとし、ラット坐骨神経より採取したシュワン細胞をコンフルエントになるまで培養し、無血清のシュワン細胞培地に変えて3日間培養した上清(シュワン上清)をテストとして用いた。1.0×10*6個の神経堤細胞を2日間培養後、神経堤細胞培地およびシュワン上清で3日間培養した細胞の遺伝子発現パターンを比較した結果、シュワン上清で培養したシュワン細胞には軸索反発に関連する遺伝子に変動がみられ、現在データを解析中である。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画どおり、iPS細胞由来神経堤細胞をラット下歯槽神経損傷モデルへ移植し、その効果を検討する実験を中心に進めていく。これまでと同様に摘出した試料から作成したパラフィン切片を用いて組織学的および免疫組織化学的に解析を行う。それと共に樹脂包埋したブロックを用いて電子顕微鏡的観察をおこない、髄鞘の太さなどをコントロール群と比較検討する予定である。 また、これまではヒト由来である細胞の同定を抗ヒトミトコンドリア抗体や抗ヒト核抗体で実施してきた。今後は神経堤細胞(または移植細胞)へレンチウイルスを利用してGFP遺伝子を導入することを計画(P2実験室の申請済み)しており、この方法で標識された細胞を移植することで細胞のトラッキングが可能となり、より確実にヒト由来の細胞(または移植細胞)であることを証明できるため研究の精度が高まると考える。 あわせてin vitroでの神経堤細胞とラットシュワン細胞との共培養に関連する実験を行う。神経堤細胞が有する軸索伸長やトロフィックファクターに関連する遺伝子の発現をPCRで解析し、ラットシュワン細胞の増殖能、抗アポトーシス効果、遊走能を解析し、移植した神経堤細胞の軸索再生に及ぼす作用機序の解明につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
免疫組織化学的解析等に使用する抗体について、当初の計画よりも少ない抗体量で済んだため、平成29年度の研究費に未使用額が生じた。 最終年度となる次年度は、再生した軸索を評価するための一次抗体を充実させ、その購入に充てる予定である。
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