本研究は、口蓋形成期の形態学的変化のうち、細胞増殖活性、上顎骨の初期発生、血管系の形成に着目し、これらの点が口蓋裂発生にどの様に関与しているかを明らかにするため、マウスを用いて口蓋の発生過程を比較検討した。転写因子DEC1および DEC2は中枢のみでなく、末梢組織における概日リズムを持った発現は、時計機構における時計遺伝子CLOCKの重要性を示す。また、転写因子TWIST1は上皮間葉転換において重要な役割を果たすとともに、間葉系細胞の分化抑制に関わることが知られている。 今回注目したのは本疾患の特徴である、転写因子のDEC1とDEC2が陽性となり、Twist1が消失または減弱する点である。パラフィン切片または凍結切片を用い、二種類の異なる動物種由来の抗体を混合した一次抗体と反応させた。洗浄後、蛍光標識された二次抗体を反応させた。その後蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡で観察した。免疫染色法における条件設定の検討し、種々の切片を用いて、酵素抗体法と蛍光抗体法の違いも検討した。さらに我々は,同時陽性の部位での複数色発色を行い、同時陽性で発色の色を重ねることで強い色調で弱い色調を覆い隠す方法を行った。本疾患で線芽細胞はDEC1+/Twist1-となるためDEC1陽性色のみ観察され、正常組織ではDEC1+/Twist1+であるため、DEC1陽性色がTwist1陽性色の色調で覆い隠されて観察される。口蓋突起癒合後に口蓋組織形成予定域に細胞の集積を認め、組織形成は正常マウスに観察された。以上のことから、口蓋組織形成は口蓋突起癒合後に開始すし、さらに、組織形成過程においてDEC-TWIST1相互作用が増殖因子を遊離・活性化させ、硬口蓋形成に与る可能性が推察された。
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