研究課題
本研究計画では、様々な細胞機能に関与するSlit/Roboシグナルについて、まだ明らかとなっていない口腔扁平上皮癌での発現様式やシグナル伝達機構を明らかにしたいと考えている。口腔粘膜上皮基底細胞層の細胞接着系の破綻によって起こる発癌、進展のメカニズムに、Slit/Roboシグナルが重要な役割を担っていることが予想される。当初の予定として掲げている検討項目、1)細胞株を用いたRobo受容体の発現検討、2)Slit誘導による増殖能や遊走能の検証、3)切除時に採取したヒト検体(癌部、非癌部、前癌病変)の組織学的、生化学的発現解析を進めている。ヒト由来口腔扁平上皮癌患者から樹立された細胞株HSQ89, HO-1-u-1, Sa3, SASを用いてROBO1の発現は抗ROBO1抗体は先端科学技術研 究センター計量生物医学研究室所有のモノクローナル抗体を用いて行っている。mRNA発現は各種プライマーを設計のうえでのqRT-PCRやシークエンス解析、タンパク発現はウエスタンブロット、フローサイトメトリー、免疫染色で検討を遂行した。さらにHSQ-89細胞株を用いてSlit誘導による遊走能の検証を行い、mRNAはいずれの細胞株も発現を認めることを確認した。また、HSQ-89細胞株ではシークエンスでROBO1との同配列の確認など終えた。一方、タンパク質レベルで発現するHSQ-89, HO-1u-1、Sa3細胞株のうち、HSQ-89細胞株について、Slit誘導による遊走能を確認するなどを行い、これらの検討より、口腔癌の代表的な細胞株において、ROBO1の発現を認めた(mRNA; 4/4,現在ヒト検体についても検討を進めているところである。
3: やや遅れている
これまで、細胞株には、種類によってROBO1の発現量に差があることが示され、またがん種によっても異なることは文献的にも示されているため、コントロールとなる高発現する細胞株の構築には時間を要した。これはヒト検体においても同様の傾向が示唆され、さらに抗体の特異性を担保する染色が得られにくいことも計画を阻む要因となっている。また、当教室主宰者である教授の交代があり、環境要因も研究遂行に影響している。
これまでも述べてきたようにSLIT2/Robo1シグナルが、癌細胞の浸潤、転移、上皮間葉移行 (EMT)、腫瘍血管新生における重要な役割を果たすことが示されてきており、浜窪らの研究により、肝細胞癌、小細胞肺癌において、A 90Y によりラベルした抗Robo1抗体による放射免疫療法 (Radioimmunotherapy, RIT) の有効性が示されたこともあり、Robo1は抗体による癌治療法の標的因子として の可能性の高いものであると考えられる。そのため、本研究では、複数のHNSCC細胞株におけるRobo1の発現量を明らかにすることで標的因子としての可能性を模索し、抗Robo1抗体を用いた細胞障害活性の検討についても模索し、HNSCCに対するその有効性についても検討中である。抗Robo1抗体にサポリンを付加したイムノトキシンを用いて、Robo1を発現する頭頸部扁平上皮癌細胞株および血管内皮細胞(HUVEC)に対する効果を調べた。培養した細胞に光増感剤AlPcS2aを前投与し、650nmのLED光を照射する光化学的内在化法により、強い腫瘍細胞および血管内皮細胞殺傷効果を認めた。さらに、がん細胞株HSQ-89を移植したマウスゼノグラフトを用いた光化学的治療においても腫瘍縮小効果を認め、本手法が臨床応用可能である結果を得た。引き続きRobo1の作用を検討していく。
研究分担者の人事異動等により遂行が遅延したため。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件)
Oral Science International
巻: 16 ページ: 100-105
BMC Cancer
巻: 19(1) ページ: 52
doi: 10.1186/s12885-019-5277-1.
Wound Repair and Regeneration
巻: 26(3) ページ: 284-292
doi: 10.1111/wrr.12675.
Chinese Journal of Cancer Research
巻: 30(6) ページ: 677-678
doi: 10.21147/j.issn.1000-9604.2018.06.12.