研究課題/領域番号 |
16K11718
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
道川 千絵子 東京医科歯科大学, 医歯学総合研究科, 非常勤講師 (00622648)
|
研究分担者 |
鵜澤 成一 大阪大学, 歯学部附属病院, 教授 (30345285)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 被膜外浸潤 / 頸部リンパ節転移 / 口腔癌 / 次世代シーケンス / 扁平上皮癌 / 頭頚部癌 |
研究実績の概要 |
被膜外浸潤を生じた口腔扁平上皮癌17症例に対して、原発巣新鮮凍結検体、同一症例の被膜外浸潤陽性頸部リンパ節転移巣、血液(コントロール)からゲノムDNAを抽出して実施した次世代シーケンス解析が終了したため、これに先駆けて行った癌ゲノム・アトラス(TCGA)に登録されている口腔扁平上皮癌230症例の遺伝子変異データの探索的解析の結果と合わせて論文にまとめた。この解析により、TP53のある変異タイプが、被膜外浸潤を生じる原発巣において高頻度に見られることが分かった。また、原発巣および転移リンパ節の両方にTP53変異が認められた12症例のうち、8症例の変異タイプは原発巣・リンパ節転移巣両者に共通していた。共通した変異が見られなかった症例に関しては、癌の遺伝的多様性が原因と推測されるため、さらなる詳細解析を検討している。 また、現在、頭頸部癌患者において、被膜外浸潤陽性症例に対して術後に高用量シスプラチン単剤を用いた化学放射線同時併用療法を施行することが世界標準治療とされている。しかし、重篤な副作用の軽減、および、さらなる生存率改善が必要であり、用量の調整、および、他剤、ないし、分子標的薬との併用療法などが模索されているが、その1つに、2004年以降行われた第2相試験がある。ここでは、低用量シスプラチンと分子標的治療薬であるセツキシマブに放射線を組み合わせた群と、低用量ドセタキセルとセツキシマブに放射線を組み合わせた群の比較を行い、両群ともに従来の標準療法よりも生存率の改善と副作用の減少とが認められた(J Clinical Oncol. 2014)。この対象患者のうち、使用可能であった172症例の臨床検体を取り寄せ、ゲノムDNA抽出を行い、遺伝子変異の状況と患者の生存率、被膜外浸潤、および、術後治療法との関連性を検索することを目的とし、次世代シーケンス解析を終了させた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌の分子的機序の解明を目指す包括的プロジェクトの1つである癌ゲノム・アトラス(TCGA)の登録データを用いて、被膜外浸潤陽性症例の原発巣における遺伝子変異・RNA発現状況・遺伝子(領域)コピー数に関する網羅的解析を行うことができた。この結果は、被膜外浸潤を生じた原発巣および同一症例の転移巣に対する次世代シーケンスを用いた遺伝子変異検索に関するpreliminary dataと合わせて論文にまとめられた。そして、被膜外浸潤陽性症例を多く含む切除可能進行頭頸部癌の術後治療に関する臨床試験対象患者の検体を用いたさらなる遺伝子変異解析結果を進めることができているため。
|
今後の研究の推進方策 |
切除可能な進行頭頸部癌患者に対する臨床試験検体を用いた遺伝子解析の結果は得られたため、引き続き、遺伝子の変異状況と患者の生存率、被膜外浸潤、および、術後治療法との関連性を解析する。その後、現在までに得られている口腔癌患者の不良な経過、および、被膜外浸潤に関連した遺伝子変異状況に関する結果と照らし合わせ、さらなる戦略を考える。最終目標は、被膜外浸潤を生じる患者の術前選択と術後治療方針の選択である。 また、現在、被膜外浸潤のバイオマーカー・メカニズムにせまるために、別の観点からTCGAの登録データを解析中であり、今年度この解析結果を用いた新たな研究の立ち上げを予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現在までの解析・研究からは、頸部リンパ節転移巣における被膜外浸潤のバイオマーカーおよびメカニズムは依然として明らかではない。しかし、被膜外浸潤は術後治療立案、および、患者予後の観点から非常に重要な臨床病理学的因子の1つであり、考え得る、また、実行し得る研究はまだまだ、たくさん残されている。現在、論文報告をもとに、癌ゲノム・アトラス(TCGA)の登録データを2通りの別々の観点から解析中である。今年度、解析結果を検証するための新たな研究の立ち上げを予定しているが、この実験には、大規模コホートが必要であり、まとまった額の研究費が必要である。また、結果がまとまり次第、国際学会での発表を予定している。
|