研究課題/領域番号 |
16K11720
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
冨原 圭 富山大学, 附属病院, 講師 (70404738)
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研究分担者 |
山崎 学 新潟大学, 医歯学系, 助教 (10547516)
野口 誠 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 教授 (50208328)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 口腔癌 / マウスモデル / 免疫抑制 |
研究実績の概要 |
本研究は、担癌宿主における免疫逃避機構の一つとして注目される、ミエロイド系抑制性細胞(Myeloid derived suppressor cell:以下MDSC)の増加と、加齢変化としてT細胞上の免疫チェックポイント分子群の発現増強などのいわゆる免疫老化現象によって引き起こされる免疫抑制状態に着目し、老齢マウスを用いたシンジェニックの口腔扁平上皮癌モデルを作製し、老齢の担癌宿主におけるMDSCと免疫老化現象を介した癌免疫逃避機構の解明と、その制御機構について検討を行い、口腔扁平上皮癌に対する新たな免疫学的治療戦略を開発することを目的としたものである。具体的な研究内容として、本研究では、老齢マウスを用いたシンジェニックのマウス口腔癌モデルを用いた免疫学的解析を行う。①C3H/HeNマウス由来の口腔扁平上皮癌NR-S1Kと16月例の老齢マウスを用いて老齢担癌モデルを作製し、腫瘍組織、リンパ組織、脾臓、骨髄、末梢血での各種免疫細胞の分布や表面抗原の発現解析、②免疫チェックポイント分子を標的とした各種の抗体療法に関して治療実験、③口腔癌由来の免疫非抑制性CD11b、Gr-1陽性細胞を用いた腫瘍特異的免疫反応の解析や、口腔癌担癌マウスに対するワクチン療法としての抗腫瘍効果について解析を検討し、現在のところ、老齢担癌マウスにおいては、腫瘍組織、リンパ組織、脾臓、末梢血のいずれにおいても、若齢担癌マウスに比べて制御性T細胞(Treg)の有意な増加を認めた。一方で、ミエロイド系抑制性細胞は、老齢担癌マウスと若齢担癌マウスにおいては、明らかな差は認められなかった。さらに、老齢担癌マウスでは、若齢担癌マウスに比べて、CD4、CD8T細胞上のPD-1、CTLA-4などの免疫チェックポイント分子の増強が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究において、口腔癌担癌マウスの腫瘍組織から分離したMDSCでは、細胞表面上のPD-L1の発現が増強し、PD-L1の中和抗体により、T細胞に対する抑制効果が減弱を確認している。また、口腔癌担癌マウスの脾臓から分離したMDSCでは、細胞表面上のMHC ClassIIの発現が増強し、T細胞の増殖を有意に促進する効果も示されている。また、老齢マウスでは、若年マウスに比べて皮下移植した口腔癌(NR-S1K)の増殖が有意に早かったことから、本研究では、腫瘍環境における免疫抑制の機序に加えて、加齢変化における免疫抑制機序の修飾効果を解析するもので、現段階で、老齢口腔癌マウスでは、若年担癌マウスに比べて、末梢血、リンパ組織、脾臓、腫瘍で制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg)が有意に増加しているが、MDSCに有意な差は認められなかったこと。また、老齢担癌マウスのT細胞では、若年担癌マウスのCD4陽性T細胞に比べて、細胞表面上のCTLA-4、PD-1の発現が増強していたことなどの、老齢の担癌宿主における免疫抑制の機序の説明として、Tregの増加、T細胞上の免疫チェックポイント分子群の発現が増強の二つの機序が解明されており、今後の研究の足掛かりとして十分な情報が得られているからである。
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今後の研究の推進方策 |
担癌宿主からの免疫抑制性MDSCの効果的な除去の検討として、1.NR-S1K担癌マウスにおいて、抗PD-L1抗体を投与し、MDSCの出現頻度を確認してMDSCのin vivoでの排除が可能かどうかを検討する。2.MDSCの選択的排除により、他の抑制性細胞であるTregや腫瘍関連マクロファージ(M2マクロファージ)などの分画の推移についても解析を行い、MDSCの排除により、逆に他の抑制性細胞が増加する可能性についても評価する。3.MDSCの選択的排除に関する有効性が示唆されているその他の薬剤である抗VEGF抗体、ゲムシタビン、5FU、ドセタキセルなどの抗癌剤、MDSCのarginaseⅠ阻害薬であるCOX2阻害薬、MDSCの誘導に関わるMMP9の阻害薬であるビスフォスフォネート製剤等を使用し、MDSCの除去率について上記の抗PD-L1抗体との比較検討を行う。4.老齢担癌マウスにおける免疫応答について、MDSC除去の前後で、T細胞免疫応答は、抗CD3抗体刺激によりその増殖をCFSE細胞分裂試験で、IFNγの産生については細胞内染色によりともにフローサイトメトリーで解析する。また、担癌宿主で増加を認める免疫反応を増強する免疫刺激性CD11b、Gr-1陽性細胞の抗腫瘍効果の検討として、1.All-trans retinoic acid(ATRA)やゲムシタビン、5FU、ドセタキセルなど各種抗癌剤の低用量投与により免疫抑制性MDSCの分化誘導が可能かどうか、またそれに伴い免疫抑制性が喪失するかどうか解析する。具体的には、CD11b、Gr-1陽性細胞の細胞表面分子群の発現をフローサイトメトリーで、またiNOS、Arg1、VEGF、MMP9、S100A8、S100Aの発現をリアルタイムPCRで解析する。
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