研究実績の概要 |
本研究で使用した口腔扁平上皮癌細胞株, SAS, SAS-T5, SAS-L1 は同一の起源であり, 親株 SAS が転移能を獲得するようにマウスで継代分離されたのが SAS-T5, SAS-L1 である。転移巣形成に関わる細胞は, 脈管内で浮遊した状態でも免疫監視によるアポトーシス刺激(アノイキス)に抵抗性を有する必要がある。そこで、超低接着性細胞培養プレート使用下での各培養細胞の TRAIL に対する感受性について検討を行った。TRAIL に感受性のある SAS 細胞では, アノイキスによる細胞死に加え, TRAIL によるアポトーシスの誘導が確認された。一方で, SAS-T5, SAS-L1 細胞ではアノイキスによる細胞死のみで, TRAIL によるアポトーシスの上乗せ効果はみられなかった。今回の検討では, 転移能の有無とアノイキス抵抗性に相関はなく,リンパ行性転移を好発するものの, 血行性転移は稀であるという口腔癌転移のメカニズムを解明する一助になる可能性がある。また、口腔扁平上皮癌の転移巣形成ステップにおいて, アノイキスへの強い抵抗性を獲得することは必ずしも重要でない可能性も示された。 転移能の獲得を可能にするような癌の悪性形質に関わるシグナルの上流に位置する分子の発現に変化があったのではないかと考え, 細胞増殖や生存, 細胞骨格や形態の調節, 運動や遊走, 細胞接着など多岐に影響を及ぼす Src に着目した。活性型 Src の発現亢進と口腔扁平上皮癌の転移能の相関が明らかになったとともに, 細胞増殖能にも Src シグナルが強く影響していることがわかった。さらに, Src の発現を抑制することによって, 転移能を有する SAS-L1 細胞の TRAIL 抵抗性を解除することに成功した。
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