研究課題/領域番号 |
16K11750
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 茂 岡山大学, 大学病院, 准教授 (50253000)
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研究分担者 |
樋口 仁 岡山大学, 大学病院, 講師 (30423320)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / デクスメデトミジン |
研究実績の概要 |
今年度は脳梗塞モデルの確立に重点をおいた。ペントバルビタールの腹腔内注射では動物実験委員会の承認が得られず,また実際に30分ほどの手術を動物に苦痛を与えることなく完了することが困難であると思われたため,イソフルレン吸入による麻酔管理のシステムを整えた。また,当初は総頚動脈の結紮により脳梗塞モデルを確立する予定であったが,より確実な梗塞を引き起こすために,内頚動脈へシリコンでコーティングされたモノフィラメントナイロン糸を挿入することとし,それに伴って必要となった動物手術用の顕微鏡を学内で手配した。止血用のバイポーラは今回の研究費で購入した。そして,中大脳動脈起始部を1時間塞栓し,その後再度血流を再開させた。麻酔から覚醒した後に,ビヘイビアを観察し,梗塞の程度を評価した。また24時間後に脳を取り出し,2mmの厚さ切片を作製し,それをTTC(2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド)で染色し,梗塞領域を測定した。デクスメデトミジンは浸透圧ポンプへ充填し,上記手術と同時に皮下に留置した。 その結果,虚血再灌流モデルとして特徴的なビヘイビアを認めるとともに,著明な梗塞領域を認めた。デクスメデトミジンの脳梗塞に対する効果として,梗塞領域が縮小するような傾向は著明ではない。またデクスメデトミジンを投与したマウスでは行動が緩慢になる傾向が見られ,これはデクスメデトミジンによる鎮静作用の効果であると思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脳梗塞モデルの確立に当初の予想よりも多くの時間が必要であった。まず動物実験委員会の指導と,比較的長時間となる手術への必要性から,吸入麻酔薬による麻酔を行うことが必要であった。また動物手術用の実体顕微鏡を手配することが必要であった。さらに,安定して脳梗塞症状を発症させ,また一定の領域の梗塞巣をもたらすために,血管内へ挿入する塞栓子にも配慮が必要であり,いくつかの種類の糸を試したが,最終的にはナイロン糸がシリコンでコートされた専用の塞栓子を購入して用いることで解決した。さらにデクスメデトミジンが梗塞領域を縮小させるという効果を期待して,実験を繰り返したが,現時点の結果では明らかな梗塞領域の縮小は期待できない。
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今後の研究の推進方策 |
まず梗塞領域を指標として,中大脳動脈閉塞による脳梗塞に対するデクスメデトミジンの効果を調べる。方法は平成28年度に確立した手術手技として,シリコンでコーティングされたモノフィラメントナイロン糸をマウス内頚動脈へ挿入し,1時間後に血流を再開することによる。デクスメデトミジンも平成28年度と同様に,皮下に埋め込んだ浸透圧ポンプから緩徐に投与する。梗塞領域の測定はTTC染色した脳切片の写真をコンピューターに取り込み,梗塞領域を測定することによる。これにより,虚血再灌流モデルにおける梗塞領域の変化に対する効果を明らかにする。 次に,手術中の循環変動の動態を模した,全脳虚血マウスに少量のlipopolysaccharideを投与したモデルを用いて,アポトーシス(TUNEL染色,活性化caspase3),炎症反応(IL-1 beta, IL-6, TNF alpha),酸化反応(HO-1)を指標としてデクスメデトミジンの効果を定性的および定量的に調べる。 上記の研究により,全脳虚血に炎症が加わることによるアポトーシス,炎症,酸化をデクスメデトミジンが抑制することが期待されることから,次に培養細胞を用いて,その作用機序を調べる。脳虚血に伴う合併症に対して,BDNF(brain derived neurotrophic factor)が有効であることが知られており,デクスメデトミジンがBDNFを活性化することにより脳保護効果を示すという仮説を検証する。アストログリア由来のC6および可能であればミクログリア由来のBV-2を入手して,アドレナリンα2受容体選択的阻害薬のヨヒンビンおよびBDNFを活性化するMAPキナーゼ(ERK1/2)の阻害薬(PD098059)を作用させて,細胞の反応を定量的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定通りに執行したが,端数が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
金額は比較的小さいのでこれによって研究の計画が変わることはない。
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