研究課題/領域番号 |
16K11750
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 茂 岡山大学, 大学病院, 准教授 (50253000)
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研究分担者 |
樋口 仁 岡山大学, 大学病院, 助教 (30423320)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | デクスメデトミジン / 脳虚血 / LPS / せん妄 |
研究実績の概要 |
全身麻酔手術後のせん妄は手術侵襲の程度や出血量などがリスクファクターであることが知られている。そこで周術期モデルとして,軽度の炎症と短時間の脳虚血を想定してモデルを作製し,そのモデルに対するデクスメデトミジンの効果を調べた。ICRマウスを5群に分け,それぞれコントロール群,LPS群,CAO群,LPS+CAO群,DEX群とした。LPS群およびCAO群にはそれぞれ上記LPSの投与またはCAOを行い,LPS+CAOでは両方を行った。DEX群ではLPS+CAO群に加えて,浸透圧ポンプを用いてデクスメデトミジンを持続的に投与した。6時間後に脳を取り出し視床下部,海馬,線条体,大脳皮質におけるIL-1 betaおよびIL-6 mRNAをリアルタイムPCRによって比較測定した。その結果,LPS群およびCAO群ではIL-1 betaおよびIL-6のいずれもほとんど反応しなかったが,LPS+CAO群ではいずれの部位においてもレベルが上昇し,特に海馬においてはコントロール群,LPS群およびCAO群と比較して,いずれも有意に上昇していた。さらにデクスメデトミジンによりIL-1 betaおよびIL-6 mRNAの反応は,有意に抑制された。 次に,CAOによる虚血を6時間として,7日後にマウスの脳を取り出し,TUNEL染色を行った。その結果海馬の歯状回でLPS+CAOによるDNA断片化を認め,その変化はデクスメデトミジンの持続的な投与によって抑制された。 これらの結果から,手術に伴う末梢の炎症と手術中の低血圧などによる一時的な脳虚血によって,脳における炎症およびアポトーシスが惹起され,それはデクスメデトミジンにより抑制されることが示唆された。臨床においてはデクスメデトミジンは全身麻酔下手術後のせん妄をコントロールする可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
少量のLPS投与と短時間の脳虚血によって,海馬に炎症反応が惹起されたことは新たなモデルの確立をもたらした。そしてその反応をデクスメデトミジンが抑制したことによって,デクスメデトミジンの脳保護効果が示されたと考えている。この結果は新たな治験であり,順調に研究が進んでいる根拠となる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までにTUNEL染色によるアポトーシスの一端を垣間見てきたが,まずこの実験を積み重ね,DNA断片化に対するデクスメデトミジンの効果を定量的に評価する予定である。次に,中枢神経の酸化およびアポトーシスに対するデクスメデトミジンの効果を調べるため,マウスで今回確立したモデルを用いて,脳組織におけるカスパーゼ3の活性化と,デクスメデトミジンの効果を調べる予定である。さらにグリオーマ由来培養細胞を用いて,過酸化水素による酸化反応を惹起し,それによるカスパーゼ3の反応とデクスメデトミジンの効果を調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画を一部変更したために,次年度使用額が生じた。現在の研究は順調に進んでおり,今後大きく計画が変更されることはない。
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