ICRマウスに対して,頚動脈の結紮による短時間の脳虚血と少量のLPS投与を行い,6時間後に脳を取り出し視床下部,海馬,線条体,大脳皮質におけるIL-1 betaおよびIL-6 mRNAをリアルタイムPCRによって比較測定した。その結果,LPS投与のみ,または虚血のみではIL-1 betaおよびIL-6のいずれもほとんど反応しなかったが,両者を組み合わせることによっていずれの部位においてもレベルが上昇し,特に海馬においてはコントロール群,LPS群およびCAO群と比較して,いずれも有意に上昇していた。さらにデクスメデトミジンによりIL-1 betaおよびIL-6 mRNAの反応は,有意に抑制された。 次に,CAOによる虚血を6時間として,7日後にマウスの脳を取り出し,TUNEL染色を行った。その結果海馬の歯状回でLPS+CAOによるDNA断片化を認め,その変化はデクスメデトミジンの持続的な投与によって抑制された。これらの結果から,手術に伴う末梢の炎症と手術中の低血圧などによる一時的な脳虚血によって,脳における炎症およびアポトーシスが惹起され,それはデクスメデトミジンにより抑制されることが示唆された。臨床においてはデクスメデトミジンは全身麻酔下手術後のせん妄をコントロールする可能性が考えられた。また,ラットグリア由来の細胞株C6を,脳虚血を模した低酸素低グルコース(OGD)において低濃度のLPSを作用させたところ,IL-6 mRNAのレベルが著しく上昇した。またそれに対してデクスメデトミジンを作用させると,IL-6 mRNAの上昇を抑制した。 以上のことからデクスメデトミジンは脳虚血に対して,特に海馬のIL-6の上昇とアポトーシスの惹起を抑制し,そのことは培養細胞においても確かめられた。
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