研究実績の概要 |
口腔顔面領域は慢性疼痛が発症しやすい部位である。慢性疼痛(Chronic pain,CP)は器質的な異常がない、あるいは組織損傷が治癒したにもにもかかわらず遷延するいたみである。CPに苦しむ人は決して少なくなく、歯痛(顔面痛)を訴えて歯科を受診する患者の17%がCPであるとの報告もある。CPに苦しむ患者は持続する憂鬱な痛みのために日常生活活動が低下し、家族や社会から疎外され,著しいQOL低下を被るとともに社会的にも大きな損失である。しかし、CPの治療法は全く確立されておらず、患者は効果のない治療を受け続けているか、痛みからの解放を諦めているのが現状である。痛み刺激によって起こる感覚的な痛みは脳の感覚受容野で認識される。痛み刺激が加わると感覚的伝導路のみではなく、その他の高次脳が同時に活動し,感覚的刺激を修飾する。国際疼痛学会は、痛みを「不快な感覚的・情動的な体験」と定義している。つまり、痛みとは単なる感覚ではなく、不安、怒り、嫌悪、恐怖などの情動面をも有している。事実、慢性疼痛患者は感覚的な刺激がなくても、不安、緊張、恐怖などの情動ストレスのみによって痛みを感じることがある。情動的な痛みには高次脳である,扁桃体,前帯状回,島皮質の活動亢進が深く関与しており,感覚的な痛みの情報を修飾する。特に扁桃体の活動は痛みの情動面を高めるため,過剰な活動は生体の防御機構として必要とされる以上の強い痛みを生み出すことになる。扁桃体の過剰活動を感知し,それを抑制するブレーキの機能を持つのが背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex, DLPFC)である。つまり, DLPFC の機能が低下した患者では感覚的な痛み刺激がなくとも痛みが起こることとなる。その痛みは時に鮮烈で,また持続性の憂鬱な痛みである。CP患者ではDLPFCの機能が低下していることがわかった.
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