研究課題/領域番号 |
16K11765
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大井 良之 日本大学, 歯学部, 教授 (60271342)
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研究分担者 |
小林 真之 日本大学, 歯学部, 教授 (00300830)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オピオイド / 島皮質 / シナプス伝達 / γ-アミノ酪酸 / パッチクランプ法 / 鎮痛 |
研究実績の概要 |
代表者は,大脳皮質におけるオピオイドの抑制性シナプス伝達修飾作用を明らかにするとともに,in vivo光学計測法を用いて,皮質ニューロンの総和の活動性への影響を検討し,いまだ不明な点が多い麻薬性鎮痛薬の作用機序を解明することを目的とした。 まず島皮質スライス標本から同時ホールセル・パッチクランプ記録を行い,単一抑制性シナプス後電流(uIPSC)に対するオピオイド受容体のサブタイプ別の修飾作用について検討した。記録細胞を興奮性錐体細胞(Pyr)と,代表的な抑制性介在ニューロンのfast-spiking細胞(FS),およびその他の抑制性介在ニューロン(non-FS)に分類し,FS/non-FSからFSおよびPyrのペアを同定し,オピオイド受容体の各サブタイプに特異的なアゴニスト(μ:DAMGO,δ:DPDPE,κ:U50488)のシナプス伝達修飾作用について解析した。 μ受容体アゴニストであるDAMGO灌流投与により,FS/non-FS→FSのシナプス結合でuIPSCの振幅が有意に減少したが,FS/non-FS→Pyrでは有意な変化は見られなかった。一方,δ受容体アゴニストであるDPDPEにより,uIPSCの振幅はFS→PyrおよびFS→FSいずれにおいても減少したが,non-FS→FS/Pyrでは有意な変化は見られなかった。κ受容体アゴニストであるU50488は,uIPSCの振幅を変化させなかった。 次に,オピオイド受容体アゴニストの修飾作用の違いが,島皮質の活動性に及ぼす影響を検討するため,in vivo標本に光学計測法を適用して,侵害刺激(歯髄電気刺激)に対する島皮質の興奮伝播について,オピオイドの作用を検討した。その結果,DAMGOは侵害刺激に対する島皮質の興奮伝播を抑制し,DPDPEは興奮伝播を増大させた。U50488は,島皮質の興奮伝播を変化させなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では,平成28年度に同時ホールセル・パッチクランプ記録を行い,uIPSCに対するオピオイド受容体アゴニストの修飾作用について検討し,平成29年度以降にin vivo光学計測法を実施する予定であった。しかし,ホールセル記録の研究成果が予想よりも早く得られたことから,当該年度内にin vivo光学計測法による島皮質の興奮伝播に対するオピオイド受容体の作用についても検討することが可能となった。これらの結果をまとめると,μ受容体は抑制性シナプス伝達において,PyrよりもFSに対するuIPSCを選択的に抑制することで脱抑制を抑制し,島皮質からの出力を抑制して下行性抑制を賦活化する可能性が示唆された(Yokota et al., 2016)。
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今後の研究の推進方策 |
In vivo光学計測法による島皮質の興奮伝播に対するオピオイド受容体の作用について,オピオイド受容体サブタイプ別に違いが見られたため,次年度以降は、オピオイドの中でも代表的な麻薬性鎮痛薬であるモルヒネを用いて,島皮質のシナプス伝達に対する影響について検討を行う。ラット島皮質の興奮伝播に対するモルヒネの作用についても検討し,その鎮痛作用メカニズムを解明することを目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用する器具・試薬が当初よりも安く購入できたため,6,880円を次年度の実験器具購入使用額とする。
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次年度使用額の使用計画 |
検討に用いる実験器具、薬物・試薬の購入費として,次年度使用額と平成28年度費用を合わせて,606,880円を計上する。また、実験に使用するVGAT-Venusラットの繁殖のためのラットの購入・維持費として,10万円を計上する。 研究成果の発表および最新の科学的知見の収集のための学会参加・発表に関して,国際神経因性疼痛学会,北米神経科学会への参加旅費として50万円を計上する。
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