研究実績の概要 |
矯正学的歯の移動は、機械的刺激に対する歯周組織の一連の生物学的反応であり、歯根膜及び歯槽骨のリモデリングによってもたらされる現象である。歯の移動時圧迫側において弱い矯正力では歯槽骨の直接性骨吸収を引き起こし、強い矯正力では歯根膜組織の細胞死、細胞外基質の硝子様変性、歯槽骨の穿下性骨吸収を誘発する。近年Wntシグナルによる骨形成と骨吸収の制御機構の解明が急速に進んでいる。Wntファミリーの一つであるWnt5aはreceptor activator of NF-kappaB ligand(RANKL)の発現を亢進し破骨前駆細胞の分化を促進すると報告されている。これまで我々はラット実験的歯の移動実験において、牽引側にWnt5aが発現することを報告してきた。しかしながら、矯正治療による歯の移動の際の圧迫側におけるWntシグナルの役割は解明されていない。そこで本研究ではラット臼歯に強い矯正力を加え、歯根吸収を惹起させ、Wntシグナルが歯根吸収に及ぼす影響について検討した。 In vivoにおいて, 8週齢のWistar系雄性ラットの上顎第一臼歯の歯牙移動を行った。対照 (control) 群, 至適矯正力 (OF) 群, 強い矯正力 (HF) 群の計3グループに分け, 力の強さはOP群で10 g , HF群で50 g とした。当該部の切片はHE染色,Wnt5a, RANKL, IL-6, IL -17抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。 その結果、in vivoにおいて, 1週目ではHF群において歯根吸収像が認められた。さらに, 歯根吸収部でWnt5a, RANKL, IL-6, IL-17の陽性細胞の増加が認められた。 以上の結果から, 歯根吸収の発生にはWnt5a, RANKL, IL-6, IL -17の発現が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vivoにおいて, 1週目ではHF群において歯根吸収像が認められ、さらに, 歯根吸収部でWnt5a, RANKL, IL-6, IL-17の陽性細胞の増加が認められたことから, 歯根吸収の発生にはWnt5a, RANKL, IL-6, IL -17の発現が関与していることが明らかになった。平成28年度の計画がおおむね順調に進展していると考える。
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