研究課題/領域番号 |
16K11796
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
葛西 一貴 日本大学, 松戸歯学部, 教授 (30169396)
|
研究分担者 |
山口 大 日本大学, 松戸歯学部, 准教授 (60333100)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | tooth movement / daidzein / relapse / periodontal ligament |
研究実績の概要 |
【目的】後戻りは歯科矯正治療における主要な臨床的問題の1つであるが歯根膜(PDL)におけるコラーゲン線維の蓄積された機械的伸展力の開放は,後戻りに関連する因子の1つであると考えられている。イソフラボンの1つであるdaidzeinは皮膚のコラーゲン代謝回転に関与するが,後戻りに対するdaidzeinの効果は不明な点が多い。本研究は歯科矯正治療後の後戻り状態を再現しdaidzeinの抑制効果を調べた。In vivoでは10.0gで歯の移動した後,装置を取り外し,対照群にはリン酸緩衝生理食塩水 (PBS)を,実験群にはdaidzeinを歯根膜注射した。後戻り距離はマイクロCTにて測定した。H.E.染色を用いて組織学的特徴を,コラーゲンI型(COL-I),マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)-1および増殖性細胞核抗原(PCNA)を用いて免疫組織化学的特徴を調べた。In vitroではSTREXチャンバーを用いてヒトPDL(hPDL)細胞に12時間伸展力(10.0%)をかけ,細胞をdaidzein(50.0μg/ ml)で48時間処理した。daidzeinで処理した伸展したhPDL細胞におけるCOL-IおよびMMP-1のタンパク産生量および遺伝子発現をELISAおよびリアルタイムPCRにて調べた。 【結果および考察】Daidzein群の後戻り距離の比率は,対照群より有意に低かった。免疫組織化学染色はdaidzein群においてCOL-IおよびMMP-1の強い陽性反応を示した。PCNA陽性細胞の割合は21日目に増加した。伸展したhPDL細胞においてdaidzeinはCOL-IおよびMMP-1のタンパク産生は48hまで経時的に増加し,遺伝子発現は24hで最も増加した。 【結論】DaidzeinはhPDLのコラーゲン代謝を活性化し、歯科矯正治療後の後戻りの抑制に有用である可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vivoでは上顎右側第一臼歯の近心移動を14日間行った。その後,装置を除去し第一臼歯の周囲4か所に15μ1;lずつ毎日7日間, 毎日歯根膜注射を施した。また同期間にphosphate-buffered saline(PBS)の歯根膜注射を施したものをコントロールとした。対照群および実験群は,Tooth movement(TM)+PBS 群;歯の移動後にPBS 注射した群 (n=6),TM+daidzein50 ng/ml群;歯の移動後にdaidzein 50 ng/ml 注射をした群(n=6),TM +daidzein500 ng/ml群;歯の移動後にdaidzein 500 ng/ml 注射をした群(n=6),歯の移動開始(0day) 群;歯の移動なしかつ注射を行わない(n=3)に分類した。 In vitro研究ではSTREXチャンバーを用いてヒトPDL(hPDL)細胞に12時間伸展力(10 %)をかけ, 細胞をdaidzein(50 μg/ mlで48時間処理した。daidzeinで処理し伸展したhPDL細胞におけるCOL-IおよびMMP1のタンパク産生量および遺伝子発現を, enzyme-linked immunosorbent assays (ELISA)およびReal-time polymerase chain reaction (real-time RT-PCR)を用いて調べた。対照群および実験群は, Tension force (TF)群;伸展力を加えた群,daidzein群;daidzein添加を与えた群,daidzein+TF 群;伸展力を加えdaidzein添加を与えた群に分類した。 以上からin yivoとin vitroの双方の検討が終了できた。
|
今後の研究の推進方策 |
骨粗鬆症などの疾患では不足したエストロゲンの代わりにdaidzeinの摂取をすることで,骨からのカルシウム流出を抑えるほか,骨形成を促進する。また,Rassiらは, daidzeinにより破骨前駆細胞のアポトーシスが促進し,破骨細胞の分化は抑制され,骨吸収が軽減すると報告した。 以上のことから, daidzeinはコラーゲン代謝だけではなく骨代謝にも関与している可能性がある。しかしながら,hPDLF cells に対するDaidzeinの骨代謝に及ぼす影響については解明されていない。今後は,in vitroで矯正治療直後の歯根膜線維が伸展されている状態を hPDLF cellsに伸展力を加え再現し,daidzeinを添加し,Alkaline Phosphatase (ALP) ,osteocalcin(OC) ,Osteoprotegerin (OPG),receptor activator of NF-KappaB(RANKL),interleukin(IL)-1,6,8の遺伝子発現を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:今年度予定していた免疫組織化学染色をCOL-I , MMP 1およびPCNAについて実施したが,COL-III, RANKL, OPGについて次年度に移行したため。 使用計画:次年度において,免疫組織学染色は, TRAP, ALP, OC, OPG, IL-1, 6, 8, PCNA抗体を用いて行う予定である。
|