研究実績の概要 |
乳歯歯根膜細胞の恒常性維持機構の解析において、矯正治療時の歯根膜細胞の挙動を解析することは非常に有用と考えられる。矯正治療で歯の移動を行う際、圧迫側の歯根膜は血管が圧迫され虚血状態に陥り、低酸素環境下になると考えられる。そこで矯正治療時の圧迫側を想定して、低酸素環境下での影響の解析を行った。低酸素培養下でのprimer arrayを用いた半網羅的なmRNA発現の解析とエピジェネティックな変化の解析を行った。 PrimerArray (cytokine-cytokine receptor interaction)によるmRNA発現解析によると、通常培養と比較して低酸素培養した細胞で10倍以上の発現促進を認めた遺伝子は約10個であった。 低酸素培養条件でmRNAの発現促進を認めた遺伝子のうち、A , E , F, H, Iについて、イルミナ社ビーズアレイを用いてDNAメチル化解析を行った。 その結果、遺伝子A, H, IについてはDNAの脱メチル化傾向が認められた。 また遺伝子E, FについてはDNAのメチル化には差がなかった。 本研究のprimerarrayの結果から、5% O2に24時間という比較的マイルドな低酸素培養条件で、多数の遺伝子のmRNA発現が促進されていることが明らかとなった。2019年度のノーベル生理学・医学賞は酸素量検知機構であるHIF(Hypoxia Inducible Factor, 低酸素誘導因子)システムを解明した3人に送られたが、この結果もおそらくHIFが関与している可能性が考えられる。さらに今回のエピジェネティクスの解析から、遺伝子A, HおよびIは低酸素条件でDNAの脱メチル化が生じ、発現が促進されている可能性も明らかとなった。 逆に遺伝子EおよびFは高度にメチル化されているため、今回のマイルドな低酸素条件では脱メチル化は生じなかったとも考えられる。
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