介入疫学研究によって口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防に有効であることは、現在広く認知されているが、誤嚥性肺炎の原因となる特定の細菌種に関する病原因子の解析に関する細菌学的な報告はあまりない。 そこで本研究では誤嚥性肺炎の起炎菌の一つであるグラム陰性嫌気性桿菌のPrevotella melaninogenicaに注目した。P. melaninogenicaは、歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalisやTanerella forsythiaなどと同じくBacteroidetes門細菌に属し、これらのBacteroidetes門の細菌種ではプロテアーゼなどの病原因子の分泌に関与するタイプIX分泌システム(T9SS)を有することから、P. melaninogenicaも同様にT9SS遺伝子(porK)を有することが予想された。そこで本研究では、P. melaninogenica のゲノムデータベースからporK遺伝子を同定し、P. melaninogenicaのporK欠失変異株を相同組換えにより作成した。porK欠失変異株では、赤血球凝集とバイオフィルム形成が減少した。乳成分を含有する培地で培養した場合、porK欠失変異株で形成されるハロの直径は、バクテリア細胞外にプロテアーゼ分泌するプロテアーゼが減少するため、野生株が形成するハロの直径よりも小さかった。さらに野生株とporK欠失変異株の培養上清を二次元電気泳動により解析したところ、porK欠失変異株で検出される分泌タンパクのスポットが減少していた。また、マウスへの感染実験では、porK欠失変異株のマウスの死亡率は、野生株の死亡率よりも統計的に有意に減少した。これらのことから、P. melaninogenicaのT9SSを介した病原因子の分泌が本菌種の病原性に関与し、誤嚥性肺炎の増悪に関与することが示唆された。
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