研究課題/領域番号 |
16K11814
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
清水 邦彦 日本大学, 松戸歯学部, 准教授 (30328760)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 齲蝕症 / 唾液分泌量 / コンソミックマウス / マウス第2番染色体 |
研究実績の概要 |
本研究では、歯の齲蝕症(虫歯)に対する感受性の異なる2系統のマウスから樹立された第2番染色体コンソミックマウスを利用し、唾液分泌量及び成分の違いの調査、唾液腺中のアセチルコリンレセプターのクラスタリング状態の観察、コンソミックマウスの耳下腺及び顎下腺中の遺伝子発現の網羅的調査、第2番染色体上の唾液分泌能に関与する領域の同定を行い、齲蝕感受性に関する宿主の遺伝要因とその機能の解明を行うものである。 平成28年度には唾液分泌に関する調査、平成28~29年度には免疫染色によるアセチルコリンレセプターの解析とマイクロアレイによる遺伝子発現の調査、そして平成31年度までに染色体の特定領域を置換したコンジェニックマウスを作成する計画を立案し、現在進行している。平成28年度には関連する動物実験計画について、所属機関の倫理審査委員会への審査申請を行い、計画通りコンソミックマウスとその親系統であるマウスC57BL/6系統とC3H系統を対象として、唾液分泌促進薬(ピロカルピンおよびカルバコール)を利用した刺激唾液分泌量の測定を行い、それぞれの系統で有意に唾液分泌量が異なることを明らかにした。さらに平成31年度までに完成を目指す、コンジェニックマウス(染色体特定領域組換えマウス)の作製に着手し、平成28年度に第2番染色体の遠位側約1/4の領域を組換えた個体を作製し、齲蝕感染実験に利用できる個体数を得ることができた。コンジェニックマウスは複数の系統を作製する計画となっており、平成28年度に完成した遠位組換個体の他に、近位を組換えた個体についても作製が進行しており、平成29年中には齲蝕感染実験に利用できる個体数を得られる見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度計画に立案した通りコンソミックマウスの唾液分泌量および成分の違いの調査を行った。生後40日齢のB6、C3H及びコンソミックそれぞれ雄5匹、雌5匹、計10匹を対象に投与3分後から8分後までの計5分間の唾液を口腔内からピペットマンにて採取し、唾液の重量を測定し一元分散で統計処理を行った。その結果、C3Hが119.1±3.8μg、コンソミックマウスが73.9±3.3μg、B6が45.4±6.0μgであり、それぞれの分泌量には有意差が確認された。これらの唾液分泌量と齲蝕スコアは相関性が見られ、唾液分泌量の違いがマウスの齲蝕感受性に関与していることが示唆された。成分については現在解析が進行中である。 更に平成31年度までに行う予定である、第2番染色体上の特定領域をさらに詳細に組換えたマウス(コンジェニックマウス)を作成の作製も進行している。これまでに、第2番染色体上で利用できるDNAマーカーを調査し、約20Mbp間隔でD2Mit237、D2Mit90、D2Mit126、D2Mit100、D2Mit107、D2Mit226、D2Mit200の7マーカーが利用できることが判明した。コンソミックマウスのオスとC57BL/6系統メスを交配して雑種個体および戻し交配個体を作製し、その個体の遺伝子型を7つのマーカーを利用して調査した。多重交差の有無の確認を行い、第2番染色体上の特定領域がC57BL/6由来となった個体を選別し、同じ領域が組換わった個体同士の交配にてホモ型コンジェニックマウスを作製した。現在、第2番染色体動原体から163Mbpに位置するD2Mit226と179Mbpに位置するD2Mit200の間がC3H由来の染色体に置換したホモ型個体を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では期間内に唾液分泌量及び成分の違いの調査、唾液腺中のアセチルコリンレセプターのクラスタリング状態の観察、コンソミックマウスの耳下腺及び顎下腺中の遺伝子発現の網羅的調査およびコジェニックマウス作製による第2番染色体上の唾液分泌能に関与する領域の同定を行うことを計画していた。平成28年度に計画していた、唾液分泌に関する調査のうち分泌量の違いの調査は終了し、現在、成分分析が進行中でありほぼ計画通りに進行していると考えられる。しかしながら、マウスの繁殖と染色体の組換えが予想より早く進行し、平成31年度までに完了する予定であったコンジェニックマウスの作製が順調に進み、現在計画より一年以上早く進行し、一部の個体については、齲蝕導入実験を行える状態にある。作製が済んだコンジェニックマウスについて、長期に複数個体を維持するためにはコストが掛かるため、今後のコンジェニックマウスの作製程度により、平成29年度以降に計画をしていた、免疫染色によるアセチルコリンレセプターの解析とマイクロアレイによる遺伝子発現の調査については、コンソミックマウスのみでなくコンジェニックマウスをも対象に行う可能性が高くなった。両系統のマウス対象として同時に実験を行った方が、データの信頼性が上昇するとともに、コンジェニックマウスを対象とした実験を行うことで、より正確に齲蝕感受性に関与する遺伝要因の同定が行い易くなると考えられる。平成29年度には元々計画のあったコンソミックマウスを対象としたマイクロアレイ解析の準備を進めるとともに、これまでに作製の完了したコンジェニックマウスを対象とした唾液分泌量の調査と、コンソミック、コンジェニックマウスおよび親系統であるC57BL/6Jマウスの唾液腺の組織学的解析を行う予定である。
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