研究課題
歯周炎は,歯周組織の炎症・歯槽骨の吸収を主症状とする慢性疾患である.神経組織に特に高発現しているTRPチャネルタンパクは,生理活性をもつ神経ペプチド産生を誘導することで局所での骨代謝機能に関与することが知られているが,歯周炎の病態形成におけるこれらの明確な関与は不明である.本研究の目的は,歯周組織のTRPチャネルが誘導する神経ペプチドの同定と,その機能を歯周炎モデルマウスにて検討することであり,本年度はTRPV1を介して産生誘導される神経ペプチドの同定を中心に解析を行った。将来的に,神経ペプチドによる歯槽骨の骨代謝制御機能が明らかとなれば,TRPチャネルをターゲットとした歯周炎予防・治療への応用が期待される.本年度における具体的な実験内容として、TRPV1の特異的アゴニストとして知られるカプサイシンを野生型マウスの食餌に0.01%の量で混和して与え,7日後に安楽死させてサンプル回収を行った.歯肉組織および三叉神経節を採取し,mRNAを抽出後,神経ペプチドに特異的なプライマーを用いて,遺伝子発現の有無をPCR法にて確認した.また、採取した歯肉組織および三叉神経節を24時間培地で培養し,上清中の神経ペプチドの産生量をELISA法にて測定した.神経ペプチドの局在を確認するために,歯肉組織および三叉神経節を固定後,パラフィン包埋を行い,免疫染色法にて検出を行った。その結果、カプサイシン刺激により,生物活性が以前より知られているカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide;CGRP)の産生誘導が生じていることが明らかになって。
2: おおむね順調に進展している
歯肉組織中の遺伝子解析および切片作成は以前より当研究室で確立されている手技であるため、順調に進んでいる。三叉神経節の解析に関しては、改良の余地がある。
同定された神経ペプチドが骨芽細胞および破骨細胞の分化・増殖に及ぼす影響をin vitroにて検討する.骨芽細胞の分化誘導,もしくは破骨細胞の分化抑制によって,歯槽骨吸収が抑えられることを期待する.また並行して,歯牙結紮歯周炎モデルにTRPV1アゴニスト投与もしくは神経ペプチド投与を行い,歯周炎の重症度を比較検討することで,TRPV1を介した歯周炎の抑制効果を検証する.具体的には,全身麻酔下にてC57BL/6マウスの上顎左側第二臼歯に絹糸(5-0)を結紮し,7日後に安楽死させてサンプル採取を行う.TRPV1アゴニストであるカプサイシンもしくは神経ペプチドのリコンビナントタンパクは食餌に混和し,歯牙結紮の7日前から計14日間投与を行う.上顎の歯槽骨吸収量を歯周炎の重症度として比較検討を行う.また,歯肉組織からmRNAを抽出後,通法に則りcDNAを合成し,各種炎症性サイトカイン・骨代謝関連遺伝子に特異的なプライマーを用いて定量的PCRにて解析を行う.
時間的な制約のために、今年度はin vitroにおける実験が中心となり、計上していたin vivoでの実験が延期となったため。
次年度はin vitroに加え、in vivoにおける実験も精力的に行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
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