近年発見されたMultilineage Differentiating Stress Enduring (Muse)細胞を歯髄組織から分離・培養する方法の効率化を図ることを目的に研究を継続した。 ヒト歯髄組織より幹細胞を分離する手法について予備的検討を行った結果、表面抗原であるSSEA-3陽性の細胞のみを採取する方法が効率的であると判断し、そのソーティング方法を確立した。ソーティングして得られた細胞について、クラスター形成能や自己複製能、さらに三胚葉分化能があることを確認した。 また、SSEA-3陽性細胞を用いて、石灰化誘導実験を行って特性解析を試みた。細胞増殖能の測定、アルカリフォスファターゼ (ALP)染色、アリザリンレッド染色、カルシウム産生量の測定を行ったところ、石灰化の誘導が進むにつれて、骨形成能をもった細胞に分化していることが示唆された。 Muse細胞は、表面抗原であるCD105とSSEA-3の抗体を用いて二重染色後、セルソーターにてソーティングを行い、96ウェルプレートにシングル細胞となるよう播種することで得られるが、SSEA-3単独での分離を行ったヒト歯髄細胞のおいても一定程度の幹細胞が得られ、その細胞は骨形成能を有することが明らかとなった。 便宜抜歯や智歯抜歯で得られる抜去歯は医療廃棄物であり、それらの抜去歯から歯髄や歯根膜などの組織を得ることが可能である。現在、主に骨髄細胞を用いた再生医療が行われているが、それと比較しても、より低侵襲で細胞を得られるメリットがあるため、今後も新たな細胞供給源として歯髄組織の有効性を検証していくことが期待される。また、幹細胞をより効率よく採取するために、細胞に必要以上にストレスを与えずに分離する方法確立の、一助になる成果であったとも考えられる。
|