研究課題
小腸K細胞より分泌されるインクレチンであるGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)は、GIP受容体を介して作用を発揮するが、GIP受容体は膵臓だけでなく全身に分布しており、その膵外作用が注目されている。本研究課題では、GIP受容体ノックアウトマウス(GIPRKO)を用いて、実験的歯周炎を惹起し、GIPの歯周炎の発症・進展に果たしている役割の解明をめざしている。GIPRKOマウスおよび野生型マウス(WT)に、上顎右側第二臼歯(M2)歯間部に出来るだけ歯肉に損傷を与えないようにリガチャーワイヤーを留置し、プラークの停滞による実験的歯周炎を惹起し、2週間後の歯周炎の状態について、病理組織学的検討および遺伝子発現解析を行った。その結果、歯周炎の惹起は、炎症性細胞浸潤および歯槽骨吸収を増加させるが、GIPRKO歯周炎側では、WT歯周炎側と比較し、歯肉におけるマクロファージ浸潤、TNF-alpha, iNOSなどの炎症関連遺伝子発現および歯槽骨吸収が有意に増加していることが明らかとなった。GIPRKOでは、プラークの停滞により歯周炎が増悪することが明らかとなったため、次にマクロファージに対するGIPの直接作用について、ヒト単球様細胞株であるTHP-1細胞を用いて検討した。LPS刺激により増加したTNF-alphaおよびiNOSの遺伝子発現は、GIPの添加により有意に抑制された。さらにその抑制効果は、cAMP阻害薬およびPKA阻害薬で解除されることより、GIPはGIPR/cAMP/PKA経路を介して炎症反応を抑制することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に沿い、ほぼ予定通りに研究が進行しているため。
GIP受容体は、骨芽細胞や破骨細胞で発現しており、骨形成に重要な役割を果たしていると考えられる。本年度は、骨系細胞へのGIPの作用およびGIPRKOに実験的歯周炎惹起し、その歯槽骨形態についてWTと比較検討することにより、歯周炎の歯槽骨吸収におけるGIPの役割の解明をめざす。ヒト骨芽細胞系細胞Saos-2細胞におけるGIPの骨形成作用について、および骨髄細胞からの破骨細胞誘導に対するGIPの作用を検討する。Saos-2細胞に対するGIPの骨形成促進作用について、alkaline phosphatase (ALP), procollagen type 1 amino-terminal propeptides (P1NP), およびosteocalcinなどを中心に遺伝子・蛋白発現増強作用を検討する。さらにその細胞内メカニズムを分子レベルで解明する。また、骨髄細胞からの破骨細胞誘導におけるGIPの効果については、TRAP染色、colony stimulating factor 1 receptor (CSF1R), receptor activator of NF-kappaB(RANK)など遺伝子発現解析を中心に検討する。さらにGIPRKOに実験的歯周炎を惹起し、一定期間後にマイクロCTを用いて歯槽骨の形態学的変化を確認する。
マウスの系統維持において実験可能匹数にばらつきがあり一部予定が遅れたため。
組織における遺伝子発現解析を行う。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Journal of Diabetes Investigation
巻: 7 ページ: 497-505
10.1111/jdi.12450.