本年度は昨年度に引き続き、新たに同意を得られた九州大学歯学部学生30名の口腔診査ならびに唾液採取を実施し、前回と同様の方法で唾液細菌叢の解析を行った。昨年度に実施した学生30名分と合わせて合計60名分の16S rRNA遺伝子のV1-V2領域の配列について97%の相同性に基づき類似の配列を群分けすることで、 生物学的には種レベルと同等の分類となる Operation Taxonomic Unit (OTU)を構築し、各OTUの代表配列をHuman Oral Microbiome Database (HOMD) のデータと最も近似する細菌種に割り振ることでそれぞれのOTUが該当する細菌種を推定して、学生被験者60名の唾液の細菌構成を決定した。その中には5種類の菌種名が確定していないStreptococcus属 (HMT-423、HMT-431、HMT-058、HMT-070、HMT-056) が存在した。この結果は昨年と同様であり、菌種名が確定していない新たなStreptococcus属の発見には至らなかった。これらの平均構成比率はそれぞれ8.5%、2.6%、0.2%、0.03%、0.03%、個人の最高構成比率はそれぞれ25.9%、6.4%、1.5%、0.5%、0.4%であった。HOMDのデータベースは随時更新されており、最新版のVersion 15.1ではHMT-431はStreptococcus infantis、HMT-058はStreptococcus oralis subsp. dentisaniと確定されており、未だ菌種未確定のStreptococcus属は7菌種である。 さらに、菌種名が確定していないHMTの16S rRNA遺伝子配列はミティス菌群とより相同性が高いことから、医局員の唾液からStreptococcus属を釣菌する際には寒天培地上のコロニーの形態で鑑別可能なサリバリウス菌群を除外した。5名の医局員から51個のコロニーを単離培養し、16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定したところ、未確定Streptococcus属HMT-423とHMT-064が分離同定された。
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