研究実績の概要 |
【目的】高齢者において唾液量の減少はう蝕(むし歯)や歯周病といった歯科疾患のリスクを向上させ、また口腔乾燥はQOLの低下につながる。本調査では地域在住高齢者を対象として唾液量減少の要因とその寄与の大きさをコホート研究にて検討することを目的としている。【対象と方法】本研究はコホート調査中の一部として行われ、80歳および90歳の両方の調査に参加し、かつ下記に示すすべての測定に参加された66名を対象とした。測定項目は唾液採取(刺激時唾液:ガム咀嚼法3分、安静時唾液:ワッテ法30秒)、血液検査、質問紙(生活習慣等)である。80歳時の唾液量に対する90歳時の唾液量の割合(%)を算出して評価対象とした。刺激時唾液と安静時唾液にわけて検討することとし、目的変数を唾液量変化割合が減少として10%以上(モデル1)、30%以上(モデル2)、50%以上(モデル3)とするロジスティック回帰分析をそれぞれ行った。【結果および考察】刺激時唾液量についてはモデル1、2において類似した傾向が認められ、男性に対し女性はオッズ比が概ね3倍あった。また腎機能低下(クレアチニン高値)がリスクとして認められた。Model3ではこれらの変数は採用されず、有意な減少リスクは認められなかったが、ベータ3アドレナリン受容体(B3AR)関連遺伝子型がwild typeであることがリスクとなる傾向(オッズ比4.06、p=0.09)が認められた。一方で安静時唾液ではModel1,2,3ともに採用される因子が少なく、性別が刺激時唾液と同様に概ね3倍のオッズ比を示した。以上より、縦断的解析による唾液量減少の予測には、これまでに報告されたそれぞれの作用機序を考慮する必要があり、性差やB3AR関連遺伝子型といった変化のない要因が影響することが示唆された。
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