研究課題/領域番号 |
16K11886
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
白井 肇 岡山大学, 大学病院, 講師 (00263591)
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研究分担者 |
鳥井 康弘 岡山大学, 大学病院, 教授 (10188831)
吉田 登志子 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (10304320)
鈴木 康司 岡山大学, 大学病院, 講師 (30304322) [辞退]
河野 隆幸 岡山大学, 大学病院, 助教 (80284074)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 医療安全 / インシデント / 疑似体験動画 |
研究実績の概要 |
医療人の育成教育では,学習者は常に未経験の事項を経験し新たに学んでいく。その学習過程において、基本的医療技術で初心者が体験するインシデントは普遍的なものと考えられるが,教育者にとっては学習者が交代するごとに繰り返し教えなければならないことになり,多大な教育労力が必要となっている。そこで,医療技能に未熟な者が、臨床経験を通して個人で体験したインシデントやインシデントに類する事象を年度交替しても、全員が共有することが可能となれば,臨床教育の効率化がはかれ,学習レベルをさらに大幅に向上させることができると考える。学習者個人の経験したインシデントを全体の経験値とする教育システムが構築できれば,医療人育成過程における臨床教育が社会に対して安全・安心に遂行できることに大きく寄与するものと期待できる。 そこで本研究では,申請者らが歯科臨床研修教育で導入して10 年間の電子ポートフォリオに蓄積された個人のインシデントやインシデントに類する事象に関するテキストデータならびに研修歯科医から提出されたインシデントレポートを集積・分類・整理してデータベース化し,歯科臨床初心者が臨床で突き当たるインシデントを分析,分類し,その代表事例を疑似体験動画化することによって,臨床初心者らが各学習段階に応じて随時に,イントラネット上で検索,閲覧して、他人が経験したインシデントを自分の体験として活用できるようにする自己学習できるIT歯学臨床学習支援システムの開発することを目的とする。 現在、補綴物装着時の誤飲・誤嚥、支台歯形成時の歯周囲組織損傷、歯科用チェアーへの移乗時の転倒・転落、床裏装時に口腔内から義歯がはずれなくなった等の動画素材を作成し、インシデント情報として共有している。 本システムが完成すれば、教育者にとって教育労力の低減が図られるとともに、社会に対しても安全・安心な医療の提供に繋がると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去10年間のインシデント事例の分析は完了し、歯牙周囲組織損傷、誤飲・誤嚥、転倒転落、針刺し・血液暴露、患歯誤認、入力誤認、患者誤認、皮下気腫、薬剤処方・投与、患者対応・接遇、クレーム、その他の計12項目に大分類している。個々の事例についてインシデントレポートに従って、シナリオ化し動画撮影を行い、疑似体験することによって情報共有を行った。また、研究遂行中において、文書報告事例は発生したインシデントの一部の事例であり、研修の1年間に経験するインシデントの全体像を把握しているとはいい難いと考えられたため、研究途中で実態調査を行うため、複合型研修の者を含めてアンケート調査を行った。その結果、最も経験するインシデントは歯牙周囲軟組織損傷であり、33%の者が1年間の研修期間において経験したと回答した。特に、複合型研修においては、頬粘膜損傷の自験が40%となっており、外部施設に出向する前には頬粘膜損傷について注意喚起しておくことの必要性があると考えられた。また、19%の者が装着前技工物の口腔内への落下を自験しており、誤飲防止に対する対策への知識伝達も重要度が高いと考えられた。他には、超音波スケーラーによる針刺しインシデント、予約間隔へのクレームが多かった。これらの内容については平成29年度の第36回歯科医学教育学会において発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
29 年度の項目を継続実施して,可能な限り多くの臨床手技でのインシデントに関する日報を基にしたデータベースの構築ならびに動画素材の撮影を行う。さらに,29 年度にシナリオに基づき撮影された動画素材が、包括的にまとめられたシナリオとなっているかについて検証し、追加撮影する。 28年度に資金不足が理由で購入できなかった、歯科特有の狭視野を動画撮影する機材は安価なもので妥協することができず、29年度も資金不足で購入することができなかった。30年度は狭視野を鮮明に撮影することのできるビデオカメラも年々安価になってきているので、1歯レベルの視野を撮影できる機材を選定。購入し、他人が経験したインシデントをよりリアルに自分の体験として活用できるようにする自己学習できるIT歯学臨床学習支援システムの開発することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
配分された金額では、申請時に購入予定していた機材を予算不足で購入することができず、年度末予算で他の予算と合算して購入を計画した際には、選定機材が廃番となっており、新製品は更に高額となっており、購入することができなかった。また、医療機器メーカー以外の業者から魅力的な安価な商品が発売され、購入を躊躇しているうちに年度が終了した。 本研究の目的をさらに良いものとするためには、1歯単位の鮮明な動画を撮影する必要性があるので、予算の範囲内で、他のメーカーの機材を新たに選定し直し、購入計画をたて、研究を遂行する。
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