研究課題/領域番号 |
16K11907
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
平野 浩彦 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (10271561)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / レビー小体型認知症 / 摂食嚥下障害 |
研究実績の概要 |
昨年度実績、データ渉猟に加え本年度に追加検討を実施した。 【目的】アルツハイマー型認知症高齢者の嚥下機能低下に関する予知因子を明らかにすることを目的とし、縦断研究を行いADLや認知機能、他の口腔機能評価を検討した。 【対象】2015年および2016年の調査に参加したA県O町在住のアルツハイマー型認知症高齢者のうち、2015年に改定水飲みテスト(Modified Water Swallowing Test; MWST)の判定が5であった63名(平均年齢 86.1±5.3歳、男性6名、女性57名)を対象とした。対象施設は介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、グループホーム、通所介護事業所とした。2016年のMWSTの判定が5の者を維持群(47名)、5以外に低下した者を低下群(16名)とし、2015年のベースライン時の調査項目を比較して予知因子の検討を行った。 【結果】年齢、要介護度、CDR、BIに有意差は認められなかったが、舌苔の付着、挺舌および口唇閉鎖の可否、タ・カ音の明瞭度において有意差が認められた。また、低下群で有意に口腔ケア介助拒否の者の割合が多かったことから、認知症の症状の一つである周辺症状の出現と嚥下機能低下との関連が示唆された。さらに、各予知因子についてロジスティック回帰分析を行ったところ、口腔ケア介助拒否においてオッズ比9.72(信頼区間1.97-47.98)で有意に関連していることが明らかとなった。 【結論】アルツハイマー型認知症高齢者の嚥下機能が1年後に低下する予知因子として、舌苔の付着、挺舌の不良、口唇閉鎖不全、タ音とカ音の不明瞭さ、口腔ケア介助拒否が明らかとなった。口腔ケアを行う際には、認知症の病態および周辺症状を理解し、認知症高齢者への対応を踏まえた口腔衛生管理を行い、介護者への適切な指導の必要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28、29年度の本事業予定を以下設定した。レビー小体型認知症を中心とした摂食嚥下障害の特徴を把握する実態調査内容を検討する目的に、文献渉猟および学会などで情報収集を行い知見の整理を行う。またアルツハイマー病に関してもすでに蓄積した知見を基に調査票を作成し、調査を並行して行い、レビー小体型認知症とアルツハイマー病の進行による摂食嚥下機能低下の違いを把握する。 ①データ構築:2年ごとに行っている、東京都A区下特別養護老人ホーム口腔検診結果をデータベースとし、4年間のデータが揃っている183名(女性:147名、男性:36名)における平均年齢:女性:83.5±5.5歳、男性:77.6歳±8.2歳 )を対象としてデータ構築した。またA県O町における要介護高齢者悉皆調査(400名規模)における同様のデーベースの構築を行った。 ②昨年度知見:レビー小体型認知症は認知症重症度の軽度または中等度の段階から、食事自立、口腔機能の低下を認めた。一方アルツハイマー型認知症では、認知症が重度化してからこれらの機能の低下が顕著になる傾向があった。以上のように、アルツハイマー病とレビー小体型認知症では、口腔機能さらには食事関連項目の変化の傾向は異なる可能性が示唆された。 ③今年度知見:アルツハイマー病における咽頭期嚥下機能低下の予知因子を経年データより検討し、舌機能低下およびそれに伴う舌苔付着、構音機能低下と認知機能低下に伴う介助拒否が要因として得られた。レビー小体型認知症においては同様の検討が出来るほどの人数の調査ができ次第同様の検討を行う予定である。 以上により平成29年度事業目標設定と始業進捗は概ね順調に進行しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、平成29年度検討結果を基に、AD、DLBの摂食嚥下障害の評価法・対応法に関する素案を作成しその妥当性を検討する。家族や介護者が確認可能な評価方法について、渉猟した各国のデータから検討し、評価方法を考案する。特に対応法は、コントロール群を設定した介入調査を行いその妥当性の検証を行う方法論について検討している。当センター主催の研修会における評価方法、観察の要点に関する研修を実施し、また以上の調査を通し、AD、DLBの摂食嚥下障害への評価・対応法冊子等を最終成果物と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新たな調査フィールドをコーディネートすることを想定したが、今年度はこれまで整備したフィールドの新規調査およびレトロスペクティブなデータ解析を実施したため、想定した予算額以下で事業を実施できた。 (使用計画) 平成30年度は、新規に調査フィールド(当センター認知症病棟、物忘れ外来)を確保、整備するために平成29年度予算を使用する。また、本研究計画に設定した当該事業知見の学会発表および当センター主催の研修会準備も同時に実施する。
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