占領期日本において、GHQ/SCAP(連合国軍最高司令官総司令部)は看護改革を実施したことは周知の事実である。しかし、筆者らは看護改革の目的を新たな視点での考察を試みた。占領目的の一つは日本の戦前の看護をアメリカ看護へと刷新することであり、もう一つはキリスト教(プロテスタント派)への布教であると考えた。しかし,布教活動が来日の使命であった事実は、これまでの研究であまり注目されてこなかった。そのため、本研究では,看護改革を推進した人物の背景,つまり信仰と活動内容に着目して、アメリカの看護者による看護改革実施の“別の様相”を明らかにすることにした。 研究期間を通して、本目的を実証するのは困難であった。その理由は、布教活動を実証する公的な史料の存在が確認できなかったことと、布教活動は個々人の裁量で行われていたと思う事実を得たからである。筆者らの調査結果を、アメリカで開催された看護歴史学会などで発表し意見交換を行ってきた。アメリカの看護歴史研究者は、戦後日本の看護改革の目的には布教活動は掲げてはいなかったと示唆した。GHQ/SCAPが実施した改革の中で布教を色濃くした政策もあったが、医学・看護の分野においては他の改革とは違う様相であったと考えている。また、GHQ/SCAP看護課のスタッフが行っていたと思われる布教活動はすべて業務外の時間であった。つまり、政策実施の一環ではなかったと思われた。さらに、蒐集した資料から考察すると強制的な様子は伺えず、むしろ日本人が積極的に彼女らの開催する英語クラスやバイブルクラスに参加していた事実があった。 今後は、一次史料を探究を継続することと、アメリカ人が持つ宗教観を理解したうえで、さらに本研究課題に取り組んでいく。
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