研究課題
静脈内に投与すべき抗がん剤が皮下組織内に漏出する血管外漏出が起こると、炎症や水疱、潰瘍、硬結などの皮膚障害が発生することがある。これまで本研究チームは、抗がん剤の投与中に滴下部位の皮膚表面の温度を赤外線サーモグラフィーで撮影することにより、薬液の漏出による皮膚表面温度の低下を察知し、血管外漏出を量出量が少ない早期に発見できることを明らかにしてきた。この血管外漏出によって発生する皮膚障害のうち、硬結という皮下組織が硬くなる状態や、皮膚潰瘍、水疱などの重症度の高い皮膚障害は、患者の苦痛も大きく、その後の抗がん剤治療の遂行に影響を与えることから、これを予防することは重要な課題である。本研究は、抗がん剤の投与後に発生する皮下組織内の硬結や水疱などの重症度の高い皮膚障害を予防する方法を開発することを目的とするものである。2016年度は、臨床における血管外漏出と硬結発生に至る現象を明らかにすることを試みた。臨床調査により、血管外漏出後に重症度の高い皮膚障害に至るケースは、赤外線サーモグラフィー画像において低温領域が確認された後の抗がん剤投与時間が長いという特徴を見出した。このことから、血管外漏出を早期に発見しすることは、重症度の高い皮膚障害の予防に貢献するとの仮説を得た。2017年度および2018年度は、本研究のアウトカム指標である硬結を同定する指標を開発することを試みた。超音波診断装置を使用した硬結の検出方法を目指したが、硬結の描写には至らず、有効な指標は得られなかった。最終年度である2019年度は、データの再分析を行い、静脈の合流や分岐、骨突出部位を除外することによりサーモグラフィーによる硬結予測の的中率が向上する可能性を明らかにした。