心不全のような非がん疾患の緩和ケアに関するエビデンスや具体的な方略についてはまだ検討されていない。そこで、本研究では、心不全の緩和ケアに関するニーズと課題を明らかにし、心不全患者と家族に対する包括的緩和ケアモデルを開発することを目的とした。 研究後半期は、緩和ケアに関するニーズを課題の明確化のため、在宅診療を受けており、リビング・ウィルに関する情報提供を受けた慢性心不全患者とその家族を対象にした面接調査を実施した。なお、会話ができる方を対象にしたため、NYHAⅢ以上または著しい認知機能低下患者は除外した。インタビューガイドに沿って、基礎情報や、リビング・ウィルに関する情報提供を受けた際の気持ちや心理的変化、その後の行動などについて、焦点化してお話を伺った。録音データを逐語録に起こし、SCATを用いた質的データ分析を行った。 研究対象者のストーリーラインをもとに、テーマ・構成概念を整理し、6 カテゴリー、15 サブカテゴリーを生成した。結果、リビングウイルの関する抵抗感は低いケースが多く見受けられたが、症状や今後の経過を理解した上での受容ではなく、高齢であるが故、死の必然性として受け入れた結果であった。リビングウイル本来の患者主体の決定とは異なることが明らかになった。しかし、リビングウィルをきっかけに、家族などが今後のことについて話し合う、患者の気持ちについて話し合うといった具体的行動を促進するキューになっていることが明らかになった。またエンドステージや死をどのようにイメージし、期待しているかは、患者自身が経験した他者の死の影響が大きいことが示唆された。意思決定に関する対話には、心理的障壁や家族間の対話の必要性、医療者との対話の必要性が重要であることが結果より裏付けられた。
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