研究課題/領域番号 |
16K12046
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
森谷 利香 摂南大学, 看護学部, 准教授 (20549381)
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研究分担者 |
山本 裕子 畿央大学, 健康科学部, 教授 (40263272)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経難病 / 知覚異常 / 看護 / 教育プログラム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、①神経難病患者の痛みの経験と実態を明らかにする、②神経内科病棟看護師の神経難病患者の痛みの看護に関する教育ニーズを明らかにする、③神経内科病棟看護師への痛みの看護を促進する支援プログラムを考案し評価することにある。研究実施計画は3段階で構成されており、2016年度は第1段階として、神経難病患者の知覚異常(痛み、痺れなど)に関する経験を明らかにすることを目的に取り組んだ。研究方法は、神経難病患者の中でも知覚異常に関する報告の多い多発性硬化症患者、視神経脊髄炎患者11名に対するインタビューを行った。インタビューでは、知覚異常に伴う経験について半構造的に聴取を行い、結果から知覚異常の実際、困難、対処、サポートニーズについて検討中である。本邦において、神経難病患者の知覚異常に伴う経験は明らかにされてこなかったが、今回のインタビューによって患者の経験や対処から今後の看護支援に対する示唆が得られると考えられる。結果は順次、学会等で報告予定にしている。 また2017年度は第2段階の計画として神経内科病棟看護師の神経難病患者の痛みへの看護に対する実態と課題を量的に調査し、そこから教育ニーズを明らかにする。2016年度はその準備を行った。まず、神経内科看護のエキスパートの看護の実態を把握し、神経難病看護に必要な能力を抽出するため、3病院の神経内科病棟を訪問し見学、研修を実施した。さらに、神経内科看護のエキスパートとディスカッションし、神経内科看護の現状や抱えている課題を聴取した。そして、神経内科看護に関する教科書の調査を行い、教育内容の実態を検討した。これらの結果を踏まえ、神経内科看護に必要な能力に関する実践の実態と課題を調査し、その中で症状緩和の一つとして知覚異常に対する取り組みを明らかにする方向で計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1段階である、神経難病患者の知覚異常(痛み、痺れなど)に関する経験を明らかにすることを目的とした質的研究を実施し、概ね順調に進行している。 知覚異常の実際では、≪患者が経験している知覚異常≫≪日常生活に影響を与える知覚異常≫≪知覚異常の変動≫という3テーマが帰納的に導かれた。具体的には【しびれは慣れるが、痛みは耐え難い】【多彩なしびれの感じ方】【痛み・しびれとは異なる知覚異常】【特定の部位に限局した知覚異常】といったカテゴリーが生成され、しびれはあっても日常生活を送る上で慣れが生じていた。【痛み・しびれによる日常生活への影響】では、手・手先のしびれや感覚鈍麻に伴う把持力の低下などがみられた。【症状の発現のタイミングは様々】【症状を悪化させる要因は様々】については患者によって様々な症状悪化要因があった。 知覚異常の対処では、《知覚異常の緩和・悪化の予防》《知覚異常に伴う日常生活や役割への影響の補完》《知覚異常に対する精神的支え・認識的コントロール》《知覚異常の対処への認知》という4テーマが導かれた。【知覚異常を緩和する】【活動と休息を工夫する】【予測して判断する】では薬物療法やストレッチなどの緩和方法や、活動と休息のバランスを図ることで悪化を防ぎ、症状への対処の判断などについて語られた。また【関係性を維持しながらサポートを受ける】【知覚異常による二次的影響を抑制する】【対処による弊害を抑える】【知覚異常と役割のバランスをとる】では対象は相手との関係性を見極めながら理解を求めたり家事を依頼していた。【傾聴・共感で安心を得る】【気持ちをコントロールする】【知覚異常と一体になる】【比較して現状を良いものと捉える】では知覚異常について考えすぎずに前向きになるなど意図的に解釈していた。【対処は自分でする】【対処できない】では、対処は自分で情報を得て編み出していることなどが語られていた。
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今後の研究の推進方策 |
第1段階である、神経難病患者の知覚異常(痛み、痺れなど)に関する経験を明らかにすることを目的とした質的研究を実施した。上記の通り、現在は知覚異常の実際、対処という2つの視点で分析を終えている。今後知覚異常の困難やサポートニーズの視点で分析を計画している。また疾患別に特徴的な経験があれば看護ケアが異なるため、疾患別にも分析を行う。これらは順次、学会で発表する。 第2段階である、神経内科病棟看護師の神経難病患者の痛みへの看護に対する実態と課題を量的に調査し、そこから教育ニーズを明らかにすることについては、まず調査票を作成する。これに関して神経内科看護に必要な能力に関する先行研究はない。そこで臨床的な視点を含める必要があり、神経内科看護のエキスパートとのディスカッションを深め、神経難病看護において必要な看護援助の項目を洗い出す。さらに神経内科看護の教科書調査の結果を整理したものを加え、神経難病看護の実態と課題に関する調査票を作成する。この中で症状緩和に関する項目を設け、知覚異常に対する看護の実態や課題を明らかにする予定である。調査票が完成すれば、プレテストを実施して妥当性を確認する。そして全国の病院の中で診療科の中に神経内科がある病院を選択し、調査票を郵送し、返送を依頼する。結果は、記述統計を中心に、その実態を分かりやすく示す。 2018年度に向けては、第3段階に入り、神経内科病棟看護師への痛みの看護を促進する支援プログラムを考案する。支援プログラムの目的は、神経内科病棟看護師による神経難病患者の痛みの看護の質の向上、これらの看護に伴う困難を軽減するものである。第1段階での神経難病患者の知覚異常に伴う経験、および第2段階での神経内科看護師の看護の実態の結果を踏まえて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画はほぼ予定通りに進んでいるが、データ収集に関する交通費が想定していたほどかからなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
余剰分は、2017年度の神経内科病棟ベテラン看護師とのディスカッションにかかる費用(交通費、宿泊など)に充てる。本計画を通して余剰が出れば返金する。
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