本研究は,学童期以降の重症心身障がい児(者)(以下,重症児(者))の母親が,障がいのある子と共に社会で生きる過程で感じている「社会のまなざし」を明らかにすることを目的として半構成的面接を実施し,質的記述的に分析を行った。その結果,研究対象者は6名,母親の年齢は30~60歳代,子の年齢は8~36歳,在宅での介護期間は7~36年であった。面接時間は55~180分で平均80分であった。 面接内容の分析の結果,母親が感じる「社会のまなざし」は,子が主に所属する(していた)集団との関係,医療・福祉・行政におけるサービス支援,地域住民との関係を通じて語られた。 母親は,肯定的・否定的「社会のまなざし」を敏感に受け取っていた。社会に対して以下の支援を期待していることが明らかになった。1.重症児(者)の人権を尊重し個々の能力を活かせるための環境を整える支援,2.母親の内面化されている気持ちを受け入れ寄り添う支援,3.個人情報保護に関する意識の向上,4. 地域でお互いが生活していくための助け合う環境づくりである。本研究の母親のなかには,自ら周囲の人に子どもの障がいを説明したり,地域での行事へ積極的に参加し,重症児(者)に対する理解が広がるように行動で示していた母親もいた。母親の精神的健康が良好に保たれていることで自己決定が可能となり,障がいのある子が社会で共生することの意義を見出す力につながると考える。一方で,母親が子の養育上で経験したトラウマティックな出来事による内面化された苦悩は計り知れない。 母親が社会に求めることと,社会が重症児(者)とその家族に提供できる支援が一致することは容易なことではない。専門職者は,日本の社会に根強く残る「障害児(者)の母親」という社会的規範があることを認識し,専門職者をはじめ社会の意識を変えていくための取り組みが一層必要であることが示唆された。
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