わが国では近年、出産年齢の高齢化に伴い分娩時大量出血(postpartum hemorrhage:PPH)を引き起こす産婦が増えている。分娩時出血に伴う貧血と、母乳分泌の関連にはいまだ一定の見解が得られておらず、栄養摂取状況も含めた縦断的調査を実施した報告はほとんどない。 本研究の目的は、分娩時大量出血に伴う産後貧血を合併した褥婦と、正常な経過をたどる褥婦との間で、母乳中の鉄含有量および乳汁分泌量に差があるのかどうか、縦断的に比較検討を行うことであった。 A産科クリニックで正常新生児を正期産・経膣分娩した褥婦20名を対象に、分娩時800ml以上の大量出血を起こし、産褥早期のヘモグロビン10.0/dl未満・ヘマトクリット33.0%未満の貧血を合併した褥婦5組を症例群、分娩時大量出血および産褥期貧血のない褥婦15組を対象群とした。そして産褥入院中、産後1カ月、3カ月、6か月の各時期における母乳中鉄含有量、1日乳汁分泌量、BDHQを用いた褥婦の鉄摂取量を調査した。その結果、母乳中の鉄含有量と乳汁分泌量にはいずれも有意な差を認めなかった。 これまで助産臨床では、妊産褥婦に「産後の貧血は母乳の出を悪くする」というアドバイスを行うケースが散見されてきた。鉄欠乏性貧血を予防するための食事指導は、すべての妊産褥婦に必要不可欠であるが、分娩時大量出血をきたした褥婦が、産後に自信を失うことなく、母乳育児に前向きに取り組むことができるエビデンスとして、本研究結果は生かすことができる。
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