研究課題/領域番号 |
16K12194
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渕田 英津子 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (90315846)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 介護施設 / 認知症高齢者 / 生活機能 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,生活機能を支える多職種協同ケア指針を作成することである。このケア指針により,介護施設の医療と福祉の専門職が,認知症高齢者の生活機能を支えるために必要な知識と基本的なケアを共通理解し,職種の専門的視点から認知症と生活機能を系統的に把握し,協同してケアを実践することを目指す。 本年度は,Rodgersの概念分析を用い,「介護施設の認知症高齢者の生活機能」の概念を明らかにすることを計画していた。まず,関心をよせる概念を「介護施設における認知症高齢者の生活機能」とした。文献検索の対象は,国内の文献については「医学中央雑誌」「CiNii Articles」を用い,国外の文献については「CINAHL」「MEDLINE」「Cochrane Database of Systematic Reviews」を用いた。概念の属性や先行・帰結因子に関する情報の収集と収集した情報の分析は,先行因子を「生活機能の形成に影響する要因」,属性を「生活機能の特性」,帰結を「生活機能の形成により生じる事象」とし,「関連用語」とともに文献の言葉をコーディングシートに抜き出し,コードからカテゴリーを作成した。 結果,先行因子は,認知症高齢者の要因として<年齢,感覚機能,言語機能,認知症,生活に影響がある疾患>,認知症高齢者を取り巻く要因として<介護施設の利用開始時期,他の入居者・ケア職員・家族との関係,個別・共有の生活空間>の特徴があることが明らかになった。属性は,<認知症の中核症状と行動・心理症状,日常生活活動の基本となる要素,高齢者の力を引き出す要素>が見いだされた。帰結は,<生活意欲の変化,行動・心理症状の出現状況,している日常生活活動(実行状況)の変化>が示された。一方で,分析の過程で生活機能の定義や捉え方が多様であること,生活機能の特性となる日常生活活動の基本となる要素と高齢者の力を引き出す要素の検討を十分に行う必要性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Rodgersの概念分析を用い,「介護施設の認知症高齢者の生活機能」の概念を明らかにする目的で,国内の文献は「医学中央雑誌」「CiNii Articles」を,国外の文献は「CINAHL」「MEDLINE」「Cochrane Database of Systematic Reviews」を用いた。認知症高齢者の制度・政策や生活支援は,2000年の介護保険制度開始後に変化していることから,本研究では2000年以降の文献を選定し,分析対象とする文献を絞込み,概念の属性および先行・帰結因子,関連用語を抽出するための分析を行った。 Rodgersは,着目した領域から最低30文献,あるいは母集団全体の20%の文献を選択することを示している。しかし,分析の過程において,生活機能の定義や捉え方が文献によって多様であること,生活機能の特性となる日常生活活動の基本となる要素は,認知症高齢者だけでなく,要介護高齢者にも共通する要素が含まれていることが明らかになった。また,日常生活活動の基本となる要素には基本的日常生活動作能力と手段的日常生活動作能力が含まれている文献が多く,本研究において認知症高齢者の生活機能の特性について焦点とする日常生活活動を検討する必要性があることが示された。さらに,生活機能を身体機能・身体構造,活動,参加の3つのレベルで捉える国際生活機能分類の概念を用いた文献も散見された。そこで,文献検索のキーワードを再検討し,文献を追加し概念分析の見直しを行っている。そのため,追加の文献の検討と概念分析の見直しに時間を要している。また,昨年度の6月に領域の教員が退職し,欠員のまま講義・演習・実習を実施しなくてはならず,研究時間の確保ができない状況があったことも研究が遅れる要因となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,介護施設の医療と福祉の専門職が認知症高齢者の生活機能を支えるために必要な知識と基本的なケアを共通理解し,職種の専門的視点から認知症と生活機能を系統的に把握し,協同してケアを実践する「生活機能を支える多職種協同ケア指針」を作成することである。文献検討により生活機能の定義や捉え方の多様性が明らかとなり,「介護施設の認知症高齢者の生活機能」の特性を再検討することにした。そのため,国際生活機能分類,生活機能評価に関する国内外の文献を追加検討し,「介護施設の認知症高齢者の生活機能」の概念分析を完成させる。そして,概念分析で得られた構成要素を用いて,多職種協同で認知症高齢者の生活機能を支える効果的なケアや注目する視点を具体的にする。同時に,多職種協同が円滑かつ有効に実施できる要素を文献検討により明らかにする。これらをもとに,介護施設における認知症高齢者の生活機能を支えるために必要な視点と効果的なケア,多職種協同に必要な要素を示したケア指針(素案)を作成し,各要素の重要性と実施状況を無作為に抽出した介護施設に質問紙調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,本研究の基盤となる「介護施設の認知症高齢者の生活機能」の概念分析に時間を要した。しかし,「介護施設の認知症高齢者の生活機能」の概念分析は,本研究の基盤となる部分であるため,丁寧に分析を行った。分析に必要な文献の取り寄せは,本学の文献複写依頼を活用したため,予定した料金が発生しなかった。 6月に領域の教員が退職し,研究時間の確保が困難となった。
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次年度使用額の使用計画 |
「介護施設の認知症高齢者の生活機能」の概念分析の結果を学会にて発表する予定である。また,多職種協同に必要な要素を具体的にするための文献検討を行う。本学に所蔵がない文献の取り寄せには時間を要することが分かった。そのため,国立国会図書館の文献複写サービスを用いる。 また,研究補助者の雇用の目途がたったため,謝金に当てる。
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