本研究計画の一環であった施設従事者、一般市民、施設管理者を対象にしたグループワークやインタビューを研究期間内で実施することができず研究期間の延長を行った。しかし新型コロナウイルス感染症拡大と相まったため当初の計画を最終年度においても遂行することが困難であった。最終年度である今年度は、予防実践プログラム策定への示唆を得るため[A:施設内高齢者虐待を防止する取り組みとして必要だと考えられる項目]、[B:施設で実際に取り組んでいる項目]を、スタッフと管理者の集計結果から立場による認識の違いについて検討した。[A:必要な取り組み]では双方とも認知症の理解を上位に挙げており、次に高齢者虐待についての知識を深める、職員を増やす、高齢者の理解、高齢者虐待についての教育・研修、職員のストレスを緩和できる場所の設置、人権・権利擁護に関する研修・教育、高齢者虐待防止法についての理解、接遇の研修等の順に高値であった。管理者の大半は、スタッフよりも倫理・コンプライアンス、組織運営に関連する項目を[A:必要な取り組み]として認識していた。[B:実際の取り組み]でも認知症の理解は双方とも上位で、次に意見箱の設置、接遇の研修の順であった。「職員を増やす」「職員のストレスを緩和できる場所の設置」については双方とも順位が低かった。これらの結果を踏まえ、これまで得られたデータや従事者の意見を基にしながら予防実践プログラムについて検討した。その結果、高齢者理解や認知症に対する対応、不適切なケア行為の具体例、高齢者虐待に対する知識、メンタルヘルスケア等が必要な項目として挙げられ、シミュレーションや動画などを活用し自身を客観的に捉えられる方法等を策定することの示唆を得た。研究期間内では、本研究目的の介護保険施設従事者の高齢者虐待行為及び不適切ケアにおける実際について質問紙調査から得られた成果を学会発表、雑誌論文に公表した。
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