本研究の目的は,初期認知症の人が老年期の発達課題である「人生の統合性」を獲得するための看護支援プログラムの効果検証である。初期認知症(MCIおよび認知症の初期)の人15人を対象に,計6回からなる「現在・過去・未来を語り,オレンジノートに遺す支援プログラム」を実施した。看護介入過程に基づき,研究者が支援者となり,語りとオレンジノートを作成する支援を行った。介入前後で,SF-8,PGCモラールスケール,日本語版E.Hエリクソン発達課題達成尺度を測定した。介入前には参加の動機,介入後には参加した感想について聞き取りを行った。介入中の体調,表情,取り組みの様子を観察し記録した。対象者の平均年齢は80.7±7.0歳,MMSEの平均得点は25.3±2.8点であった。診断名はMCI 5人,アルツハイマー型認知症9人,脳血管性認知症1人であった。発達課題達成尺度について,介入前の尺度の平均得点は39.1±4.9点であり,40点以上を高得点群,40点未満を低得点群とし,両群を比較した。その結果,SF-8,PGCモラールスケールにおいては,介入前後で統計学的に有意な差はみられなかった。発達課題達成尺度については,低得点群において介入後に統計学的に有意に上昇した(P=.007)。高得点群においては介入前後で差はみられなかった.また語りの特徴の違いもみられた。両群に共通する特徴は【主体的に語る】【語りに支障がある】であった。高得点群は【具体的なエピソードが展開される】【人生を肯定的に評価する】,低得点群は【ネガティブな語りが多い】【今語りが中心である】といった特徴をみとめた。本介入は特に低得点群の人生の統合性の獲得を目指した看護支援プログラムとして有効と考えられた.さらに,初期認知症の人へ看護師が発達の視点を持ち関わることの重要性が示唆された。
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