研究課題/領域番号 |
16K12247
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
古謝 安子 琉球大学, 医学部, 教授 (30305198)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小離島 / 地域包括ケアシステム / 要介護高齢者 / 島内在宅介護看取り |
研究実績の概要 |
小離島では広域整備される介護サービスは海に隔絶され利用できず、民間事業所の開業はないため社会資源の整備状況に改善すべき格差がある。本研究は、介護施設のない小離島において島内在宅介護看取りという新しい概念に立脚した地域包括ケアシステムの構築が可能であるか、検討することを目的とする。小離島に住む高齢者や介護者らが、島外移動で背負う諸々の負担を回避できるような島内介護戦略を策定するものである。 対象地域は、沖縄県内小離島自治体の中で介護施設を持たない渡嘉敷村、南大東村、北大東村である。調査対象者は、高齢者に関わる行政・医療・福祉関係者、サービスを利用する高齢者、介護看取り経験者である。半構造化面接による逐語録データを修正版グラウンド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて継続的比較分析を行う。 初年度は、渡嘉敷村において調査を実施し、本年度は南大東村において、行政・医療・福祉関係者が7名、サービス利用者が3名、介護看取り経験者3名、現在介護中の者8名の述べ21名であった。村には社会福祉協議会が運営する高齢者生活福祉センターがあり、デイサービスとホームヘルプサービスは提供されていたが、ショートステイは人材不足により機能しておらず、地域包括支援センターは6年前定年退職後に県外から移住した看護師によって運営され高齢者が集っていた。 村民の8割以上が島に住み続けたいと思い、最期を島で迎えたい人が5割を占めるが、入所施設がなく医療や介護サービスが限られており、65歳以上要介護高齢者44名中19名は島外の病院や施設で暮らしている。村では最期までできる限り島で過ごし、障害の有無にかかわらず乳児から高齢者まで一緒にケアできるような共生ホームの創設にむけて動き出していた。今後、逐語録データの解析により、地域包括ケアシステム構築への示唆を得たい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は所属大学研究倫理審査委員会の承認を得た後に、渡嘉敷村との事前調整を経て計画していた調査を実施した。初年度調査した渡嘉敷村の看取り介護者と一昨年調査した粟国村介護者計15名の逐語録データをM-GTAを用いて質的分析を行い、「介護施設のある小離島において高齢者を介護し看取る経験プロセス」の演題で本年度学術集会報告を行う。 29年度の南大東村での調査で得られた、1)行政・医療・福祉関係者の逐語録データから地域包括ケアシステムの課題をとらえ、すでにサービスを整えている渡嘉敷村との比較から今後の施策への示唆を得る。2)介護サービス利用者のサービスに対する反応や期待等を抽出し、渡嘉敷村と南大東村との比較から方向性を検討する。3)最近10年間に看取った介護者3名を含めた中重度の介護を要する高齢者を現在介護する者8名の逐語録データから介護施設のない小離島での介護経験プロセスを解析する。4)今後、医療介護の一体的提供体制構築に向けた南大東村の体制および地域への期待、親族や家族の課題について逐語録データを分析し、その結果を踏まえ考察を進める。 初年度の渡嘉敷村と29年度の南大東村では、介護施設はない点で共通するが、前者は生活支援ハウスを長期入所が可能な介護施設に改変し、専門職者を整え島で看取る体制を構築していた。南大東村における介護施策の異なる状況がサービス利用者や介護者の逐語録データに反映されているか解析し、小離島における島内在宅介護看取りに関する考察を深め学会発表や論文作成に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の対象地域は渡嘉敷村、南大東村、北大東村であり、2年目に後者2村の調査を予定していたが、学科内の管理業務が逼迫し南大東村のみで実施した。 30年度は、北大東村での調査を実施する。北大東村の介護施策やサービス提供体制を把握し、対象者らの逐語録データを得た後は3村の特徴や共通点を踏まえ、介護施設のない小離島において島内在宅介護看取りという新しい概念に立脚した地域包括ケアシステムの構築が可能であるか解析を進め検討する。 今回、3小離島における島内在宅介護取りに関連する要因を明らかにして、住み慣れた地域での介護看取り体制構築への示唆を得たい。在宅介護看取りが実現できる地域づくりは島嶼地域のみならず、急増する独居世帯や高齢者世帯、過疎地域や親族支援の得られない高齢者を抱えた地域における地域包括ケシステム構築の推進に寄与できるとともに、住民及び高齢者視点からの望ましい終末期ケアの政策樹立に貢献できると考える。 本年度は最終年度であり、これまでの取組みで得られた新たな知見を学術学会等で発表し、成果をまとめた包括的な報告を3村に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
南大東村での事前調整や現地調査に連携研究者も同行する予定であったが、連携研究者との日程調整がうまくできず、南大東村との事前調整および現地調査は研究者が単独で実施した。また国際学会や国内学会等への参加および研究発表のための旅費を計上したが、学科内の管理業務が逼迫し学会参加をキャンセルした。先進地調査も時間的に都合がつかず行けなかった。 30年度は北大東村で調査を行う計画であり、連携研究者も含めた航空運賃や滞在費等の支出および先進地視察等による旅費、また英語論文校閲や投稿料に使用する計画である。
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