本研究は、島内在宅介護看取りという新しい概念に立脚した小離島の地域包括ケアシステム構築の有用性の検討を目的としている。小離島の要介護高齢者や介護者が負う島内介護の負担や、要介護高齢者が島外移動することで生じる重荷を回避できる島内介護戦略を検討するものである。 最終年度は、介護保険と認知症ケアの政策の違いと背景を学ぶためドイツの視察研修に参加し、前年実施した渡嘉敷村と南大東村の調査結果の解析および北大東村での調査と解析を行った。その結果、小離島で島内在宅介護看取りを可能にする要因として、高齢者に急性増悪をもたらす疾患がない、高齢者と介護者の信頼関係が強く共に島内で暮らす意志が固い、島内外の家族からの介護支援や代行が得られる、高齢者と介護者は病態が急変しても島内で対処する覚悟を持っている等が明らかになった。また、3小離島自治体の地域包括ケアに係る関係者のシステム構築の経験を解析すると、関係者は要介護高齢者が本島移動する現状の中で、島内の介護体制を整備するジレンマを抱えつつ多種類の事業を運営し、島内在宅介護看取りを推進したい情熱に反し介護看護サービス不足の現実認識もあり、システム構築目標が定まってないことによる連携体制の弱さが大きな課題となっていた。 我が国の政策検討者は最近、「地域包括ケアはシステムではなくネットワークであり、後期高齢者人口が急増する都市部に焦点をあてたものであった。」との発言を行っている。地域包括ケアシステム構築は全都道府県、全市町村の重点課題と認識され実行されてきているが停滞気味である。このような政策の齟齬から、小離島においてもシステム構築目標がつかめず、人材が乏しい中での連携構築の課題など、その有用性への疑問が示唆された。高齢化と人口減少が急伸する都市周辺や過疎離島地域に焦点をあてたシステム構築への政策提言と実現の方向性を早急に示す必要があると考える。
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