研究目的は、ことばと自己認識の喪失過程で認知症者の認識世界に何が起きているのか、言い換えればthere and thenの世界(ことばの世界)からhere and nowの世界(五感の世界)に生きる過程で起きている変容を明らかにすることである。 ことばはコミュニケーションや思考の手段である前に、人間の認識世界を分節する働きがある。現在、以下の3編の論文を欧米の雑誌に投稿している。それらはすべて世界を分節することばの働きから認知症者の認識世界に迫ったものである。論文”Linguistic understanding of illness”は、人間の病気の発症や症状の理解には、これまで生物学的方法、自然科学的方法、心理学的方法が用いられてきたが、そこに言語論的方法を加えることで、新たな地平が広がることを論じたものである。論文”Alzheimer’s disease from the linguistic viewpoint”は、一人称の私を主人公にして、言語論的観点からアルツハイマー病を人生の中に位置づけ、ことばと数から自由になれない人間の生きる姿を論じたものである。論文”A perspective to understand the behavior of severe Alzheimer’s disease patients with loss of language skill”は、言語を失った5名の女性アルツハイマー病者について、彼女たちの認識世界とアルツハイマー病者の行動を理解する視点を論じたものである。 まだ、3編の論文は、採択されていないが、これらの内容は、これまでの言語を失ったアルツハイマー病者の認識や行動の理解を変える。
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