研究実績の概要 |
近年,稼働年齢世代の生活保護受給者が増加している. これは世界的な傾向でもあり, 先進諸国では能力のある受給者に就労を求める政策, Workfareが進められている. 我が国でも受給者に対する就労支援事業が行われているが, 就労に至らないケースも多い. 米国での調査の結果, 福祉から就労への移行の阻害要因として, 身体的・精神的健康問題, 学歴・職歴, 学習障害, 物質依存, 子どもの健康問題や発達障害が挙げられており, 長期的な保護を受けている受給者はこれらの要因を複数抱えていることが報告されている。しかしながら, 我が国においては同様の調査はほとんどない. 労働力が減少し, 医療費や社会保障費が高騰することが予想される今後の日本にとって, 稼働年齢世代の受給者の健康問題と就労に着目した研究は重要な意味を持つ.就労支援を受ける受給者, または生活困窮者自立支援法対象者の就労意欲に影響を与える健康特性の構造の明確化を行い, 介入のあり方を検討することを目的とし、31名を対象としてインタビューを実施した。 質的分析の結果、生活困窮者の就労意欲に影響を与える健康特性カテゴリーとして, 【他者から理解されがたい持続的な苦痛】, 【精神的防御力の低さ】, 【社会的適応力の低さ】, 【自己流の健康管理】が抽出された.また,健康や就労意欲への影響要因カテゴリーとして【就労に対する抵抗感の低さ】, 【生活保護廃止への不安と葛藤】, 【社会から排除されているという認知】が抽出された.就労支援を受ける生活保護受給者のほとんどが, 健康課題を複数抱えており, 孤立しやすく, 他者からの支援を受けようとしない状況にあった. また、これらの要因が関連しあい,〈複雑な健康課題を抱えながらの就労による利点と, 生活保護受給のベネフィットの間での就労意欲のゆらぎ〉を引き起こしていることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
質的分析で抽出された健康課題に対するプログラムテーマとして、「症状のモニタリングの方法」, 「医師への症状の伝え方」, 「苦痛はどこからきているか」,「ストレスを感じた時の対策」, 「こころの危機について考える」, 「依存症からの脱却」,「『助けてもらう』力を高めるために」, 「自分のコントロール力を高めるために」, 「人とのつながりがもたらすもの」などを挙げた。今年度はこれらのプログラムを当事者とともに構築し、実施、評価していく予定である。
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