本研究は、地域在住女性高齢者における便失禁の実態を把握し、健康寿命の延伸を図るための便失禁予防・改善に向けた包括的排泄ケアプログラムを開発することを目的としている。今年度は、介入方法策定のための文献検討を実施した。文献検索には、医学中央雑誌およびPubMedのデータベースを用いて「便失禁」、「高齢女性」をキーワードとして得られた文献のうち、研究目的に合致しないと考えられる文献を除外し、医学的治療及びその他の改善プログラムの効果を検討している研究について精読し、内容の分析を行った。その結果、日本および諸外国においても、対象となった高齢女性のうち、10%前後が便失禁を経験していた。また、これまでの便失禁に関する行研究では、「加齢」「骨盤底筋の脆弱化」「分娩による肛門の損傷」「過敏性腸症候群などの下痢を伴う疾患」が便失禁の主な要因として指摘されてきたが、便失禁患者の食事内容に着目した研究では、便失禁患者は、米の摂取量が少なく、小麦製品、果物、菓子の摂取量が多いことが示されていた。さらに、便失禁患者に対する治療及び介入方法に関する研究は、同じ排泄障害である尿失禁の研究と比較し、わずかな件数であった。主な治療方法は、国内、諸外国共に、便の調整を行う服薬治療、バイオフィードバックによる骨盤底筋訓練、仙骨神経刺激療法が主な内容であった。また、海外において出産前後の女性の小グループに対する骨盤底筋訓練の介入により、尿失禁及び便失禁の発症リスクを軽減させたとの報告があったが、高齢女性に対する介入研究は、バイオフィードバックでの骨盤底筋訓練を基本としたものしかなかった。そのため、骨盤底筋訓練の指導によって便失禁が改善する可能性が高いものの、その効果を実証するまでには至っていなかった。また、骨盤底筋訓練と合わせて、便失禁を予防するための食事指導を行う必要性が示唆された。
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