研究課題/領域番号 |
16K12364
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
大野 眞男 岩手大学, 教育学部, 教授 (30160584)
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研究分担者 |
小島 聡子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (70306249)
竹田 晃子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (60423993)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 方言復興 / 方言学習材 / 被災地の言語文化 / 災害文化 |
研究実績の概要 |
東日本大震災の被災地である岩手県下の諸地域において、疲弊した被災地の文化・社会の復興を方言の活性化を通じて支援するために、①活用されずに被災地に眠ったままになっている膨大な方言調査結果のデータベース化・学習材化、②方言使用場面の維持・拡大のための様々な「方言を語る場」を設営する活動、③言語文化復興の理論・方法論構築のための情報収集と発信の3点について、小島聡子・竹田晃子を研究分担者として取り組んだ。 ①については、昭和初期の岩手県郷土教育資料等は既にデータベース化したことを踏まえ、昭和後期に採録された談話記録資料のディジタル化・文字化・学習材化を行った。具体的には、文化庁「各地方言談話収集緊急調査」の一環として昭和55年~57年に行われた岩手県宮古市金浜の談話資料について、未公開のまま40年近く放置されていたが、当時の現地採録者である坂口忠氏との協同作業により、坂口氏保存のアナログテープをもとに、その後半部分を成果物『よみがえる三陸金浜のことば4』『同5』(各データCD2枚・録音時間数約19時間・文字起こし資料約1,400ページ)の形式で学習材として利活用可能な形で復活させた。 ②については、年度途中で文化庁「被災地の方言活性化事業」が採択されたため、本研究では10月までの宮古市田老地区の田老第一中学校における方言劇支援活動、10月までの釜石市における方言昔話語りの支援活動を行った。 ③の特に発信ついては、大野・竹田・小島「岩手県沿岸被災地の小・中学校における方言理解教育の支援」(第2回実践方言研究会)、第4回災害文化研究会パネルディスカッション「東日本大震災から8年」における指定討論者(大野)報告、大野「災害時に言語研究者ができる支援―方言の力強さに学ぶ―」『災害文化研究2』、大野・竹田・小島「方言語彙の継承と教育」『シリーズ日本語の語彙8』等によって深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の3年目に当たり、①昭和初期の「岩手県郷土教育資料」に加えて、被災地方言に関する伊藤麟市(1982)、岩手大学国語学研究室(1980)、牧原登(2014)等の膨大な項目の方言集のデータベース化、及び、坂口忠作成(1980~1982)の談話資料のディジタルデータ化等を完了したことにより、被災地の未利用言語資源の学習材化の前提を整備したという点で、順調に進展していると判断した。 加えて、②方言使用場面の維持・拡大を図る活動についても、釜石市での方言昔話を語る会及び釜石市教育委員会と連携して、市民ホールでの一般市民対象の語りの会、市内小学校での語り聞かせの会、仮設住宅での語りの会が順調に進展している。また、宮古市田老地区の田老第一中学校生徒会による津波被災からの復興をテーマとした方言劇支援活動も、三部作の三年目を完結でき、復興支援を目的として地元NPOや他分野の有志研究者から構成される災害文化研究会と連動した活動に移行することができた。 ③言語文化復興の理論と方法論構築については、小・中学校における国語科学習指導要領の改訂に伴い地域方言の扱いが見直されたことと連動させ、かつ海外の少数言語・方言の社会的機能に関する直近の理論研究を反映させて、共通語の持つcommunicativeな機能と対照的なsymbolicな機能を地域方言が担っていることを明確に示すことができた。具体的には、方言は共通語と対立するものではなく、いよいよ現代化・国際化する地域社会において地域アイデンティティーを豊かに担保するために必要な社会的手段であり、ことに被災地においてはコミュニティー再生の活力として不可欠な要素であること、被災地の学校教育においても肯定的・積極的に取り込まれる必要があることを、大野・竹田・小島(口頭発表2018)、大野(2018)、大野・竹田・小島(2018)として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は総括の年度に当たり、①~③の活動について以下の達成目標を設定して研究の総括を図る。 ①については、データベース化については既に当初想定した範囲を超えて達成したが、データ量が膨大でありPCのスペックによっては利活用に制約が生じることから、どのような媒体により研究分担者・利用希望者間で共有を図っていくか、具体的にはデータベースから派生的に個別ニーズに合わせた学習材を作成し、社会教育・学校教育に提供する方策を策定する。 ②方言を語る活動の推進としては、一般市民対象の語りの会の活動を継続する一方で、小・中学校の国語科学習指導要領の改訂を受けて、釜石市、宮古市田老地区での方言活性化教育実践の活動を一層充実させていく。また、併せて、岩手県と沿岸市町村で展開される「三陸防災復興プロジェクト」の一環として実施される釜石市事業に実施協力を行う。具体的には、語りの会の経験を活用して、方言昔話を語る会及び釜石市が連携して実施する三陸ジオパーク・ワクワクフェスタ「おらほの昔っこ、聞いてけだんせ」への実施協力を行う。 ③言語文化復興の理論・方法論構築については、内外の社会言語学的研究の動向を踏まえ、実践により裏付けられた支援モデルの構築に向けて、日本語学会・日本方言研究会・実践方言研究会の場において総括に向けて研究活動を継続する。具体的には、2019年秋季開催の日本語学会シンポジウム「社会変動の中の日本語研究―学の樹立と時代背景―」の登壇者の一人として、大野が被災地の言語文化復興支援を通して得た知見に基づき、今後予想される社会変動と支援者としての言語研究者の役割についてのモデルを提示し問題提起を行う。併せて、今秋の刊行を目指している『実践方言学講座』第2巻「方言の教育と継承」を通して、大野・竹田・小島を含めて言語文化復興に携わる方言研究者の成果を広く社会に問うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度計画に予定していた①データベース化について、データ量が膨大であること、データの形態も多様であること等から、データベース自体の公開ではなく、個別ニーズに合わせて加工して提供していくシステムに変更する必要があることが判明したことによる。この見直しにより、31年度において個別ニーズのモニタリングについて考慮するプロセスが生じ、「岩手県郷土教育資料」を手始めとして岩手県立図書館等と利活用に関する協議を行うことを検討する。
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