研究課題/領域番号 |
16K12367
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
原口 弥生 茨城大学, 人文学部, 教授 (20375356)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 原子力災害 / ローカル・ガバナンス / 地域再生 / 環境民主主義 / 国際比較 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に日本(東海村・福島)、アメリカ(ハンフォード)に関する資料収集を行い、原子力と地域社会をめぐる地方政治、経済構造等の概要把握に努めた。東海村JCO臨界事故と福島第一原発事故については、詳細年表・主体連関図の作成により事例の概要を確認するとともに、被害者・被災者への聞き取り調査を行った。福島第一原発事故については、支援活動を行いながらアクション・リサーチとして行い、被害者はもちろん、福島県、茨城県、復興庁、当事者団体、支援団体がもつ最前線の情報を入手することができた。 とくに「避難者」とは誰か、という点で、都道府県・市町村によって定義が異なることを問題提起した。「避難者数」によって、支援の範囲や程度が変わってくるが、単に住宅を確保したり、住民票を移しただけで「避難者」リストから外される市町村が一定程度存在する。「避難者」とは誰か、という点について復興庁、茨城県、茨城県内の市町村がもつ定義について整理した。 アメリカ・ワシントン州の現地調査を行い、1940年代以降、核兵器をはじめとする核開発の現場となったハンフォード・サイト周辺の視察ならびに地元の市経済開発関係者への聞き取り調査を行った。ハンフォード・サイトは、1980年代後半の施設閉鎖後、広大な放射能汚染地域の除染活動が続いている。その土地の将来的な活用方法を地元自治体(Richland)は議論する一方で、地域経済としては原子力に依存しない多様な経済開発を進めている。住民レベルでは、原子力や核のアイデンティティが強いことが確認されたが、行政主体としては地域経済の多様化を意識した取り組みを行っている点が印象的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画において予定していた福島原発事故、東海村JCO臨界事故の国内調査、またアメリカ・ハンフォードでの現地調査を実施した。 国内では、福島原発事故の広域避難者をめぐる実態調査を行った。住宅支援の終了にともない住まいの基盤を失うことについて、茨城県では他県に比べ、異議申立て活動がさほど活発ではなかった。一つには茨城の住宅事情により、自主避難世帯でも住宅を事故確保できる状況にあること、また福島県と近いことから、県外への避難と言えども、地域のしがらみが薄く存在し、声を上げることが難しい状況であると思われた。 研究概要で書いたとおり、今後は「避難者とは誰か」が大きな問題となるため、この点で茨城県防災危機管理課とも意見交換した結果、具体的に県内市町村に「避難者の定義」についての文書送付を行っていただいた。「避難者」リストから外された被災者は、「低認知被災者」という位置づけとなり、今後、支援の対象から外れるために注意が必要である。 アメリカ調査においても、初めての訪問地であったが、研究協力者(ワシントン州立大学Katie Bittinger)を得ることができ、スムーズに調査を遂行できた。ハンフォード・サイトの地元自治体とされるRichlandにおいても、経済開発関係部局の委員会陪席や聞き取り調査を実施でき、当初の目標を達成することができた。 ヨーロッパでの原発事故発生地域での現地調査を実施することができなかったが、来年度以降に十分、取り戻すことは可能であり、国内調査ならびにアメリカ調査の実施状況により、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、順調に進んでいる国内調査とアメリカ調査を継続するとともに、確実にヨーロッパでの現地調査を行うことが最優先事項である。すでに調査可能な地域を選定中であり、平成29年度中には調査実施の予定である。 また今年度は、福島原発事故の広域避難者アンケートを予定しており、早めに着手し、年度内に公表できるよう準備を進める。 東海村の地域研究として、原子力推進派と反対派・脱原発派の村議からそれぞれ聞き取り調査を行う予定で、すでに日程調整中である。村議以外にも、原子力をめぐる市民グループへの聞き取り調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初2回(アメリカ、ヨーロッパ)を予定していた海外調査が、実際にはアメリカ調査1回のみとなり、海外調査1回分が次年度使用分となった。また、資料収集のため確保したアルバイト代(人件費)も、自分で資料収集を進めたため使用しなかった。その分、研究の進捗が多少遅れたこともあり、来年度は積極的にアルバイトを活用し資料収集と整理を進める。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、海外調査2回実施予定である。昨年度の実施状況からすると、旅費は予定金額以上の経費がかかっており、本年度の2回の海外調査にて、昨年度の未使用金額を含めて執行予定である。またアンケート調査も実施するため、人件費やその他なども経費がかかってくるため、予定通りの経費執行を見込んでいる。
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