研究課題/領域番号 |
16K12367
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
原口 弥生 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (20375356)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 原子力災害 / ローカル・ガバナンス / 地域再生 / 環境民主主義 / 国際比較 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に研究に着手した日本(東海村・福島)、アメリカ(ハンフォード)に加え、ドイツ(ハンブルグ等)も訪問し、国際比較の足がかりをつくることができた。 被害の総体の把握には避難者数の把握が重要であるが、茨城県内の市町村アンケート結果を基にして、「避難者の定義」をめぐる諸課題について学会発表を行った(日本社会学会@東京大学)。 研究成果の社会的還元として心のケアの専門家や実践家を講演者としたシンポジウムを開催した。背景には、避難生活が長期化するなか、レジリエンスが高く順調に生活再建を進めている被災者だけではなく、さまざまな困難に直面し精神的不調をきたしている被災者の存在がある。精神的状況の悪化が、さらに生活再建を困難にするという悪循環がみられた。 海外調査は、核施設の除染が進むアメリカ・ハンフォードにおいて、州政府や環境NPOへのインタビュー調査や現地調査により、長期的な除染活動への住民参加の制度や意義について明らかにすることができた。また除染にかかわる労働災害も発生する中、労働者への補償制度の欠陥が社会問題となっている。原子力ローカルガバナンスを考える上で、労働災害への対応、住民参加の仕組み、行政からの情報発信のあり方など多くの示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本、アメリカに加え、ドイツ・オーストリアでの調査を行い、国際比較研究の足がかりをつくることができた。 被災者の置かれた状況という点では、より明確に「避難者の定義」をめぐる複雑な状況とその課題について学会発表を行った。また、その研究成果がニュースで取り上げられ、関係する行政関係者からのコメントも得ることができた。社会への還元という点でも意義深い成果が得られた。アメリカでは、除染作業への住民参加や労働災害の実例について関係者へのインタビュー調査が実施できたことは大きな成果であった。 ただし、被災者支援や復興に関する政策変更のため、平成29年度に予定していた避難者アンケートの実施を平成30年度に行うよう計画変更したことで研究に一部遅れがでている。平成30年度には実施の予定であり、全体としては研究遂行に問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるので、より具体的な研究成果を目指して研究を進める。国際比較の視点で、アメリカでの事例が日本国内の復興政策に非常に有用であり、重要な示唆を得られる見通しであるため、アメリカを中心に研究する。ハンフォード・サイトをめぐるローカルガバナンスの全容を把握するためには、労働者やネィティブ・アメリカン等、他のステークホルダーにもインタビューを行う必要がある。アメリカでは、廃炉作業による労働災害が発生しており、その補償制度も実態に合わせ拡充している状況である。労働災害や住民への健康被害の実態、その制度の課題や政策進展の推移を明らかにするためにはより詳しい調査が必要とされている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の一部は、平成29年度末から4月上旬に実施したアメリカ調査の旅費等であり、調査はすでに実施済みであり、海外出張費についてはすでに執行済みである。また平成29年度に予定していた避難者アンケート分が未執行であるが、これは避難指示区域の精神的賠償金が平成30年3月で終了するため、その後の経済状況等について実態把握する必要が生じたことによる。避難者アンケートは平成30年度中に行う予定である。
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