本研究は、原子力災害後のローカル・ガバナンスをテーマとし、地域再生と被災者の被害救済・生活再建の関係性に着目しながら分析を進めてきた。日本国内では、JCO臨界事故を経験し、東海第二原発の再稼働問題に直面する東海村と、東京電力福島第一原発事故後の被災者が置かれた状況を対象とした。国際比較対象として、深刻な放射能汚染が発生した米国ワシントン州ハンフォードを選定し、現地調査を重ねながら研究を進めた。 被害論の分析としては、広域避難者アンケートの実施により(2016年、2018年)、茨城県内の広域避難者の生活再建の実態と、直面する課題について明らかにし、研究成果として発表した。さらに茨城県や県内自治体、民間の支援団体において、調査結果が基礎資料として活用された。また、2019年には復興庁幹部と避難当事者との意見交換会にて、研究成果を政策提言として提起する機会を得た。 日本(東海村、福島)とアメリカ(主にハンフォード)との比較調査も行った。米国ハンフォードは、福島原発事故後の福島県浜通りで進む復興計画の中のイノベーション・コースト構想のモデルとなった地域である。現在でも続く、放射能汚染の除去作業においては、労働者の健康被害が継続的に発生しており、州政府と労働団体、環境団体の連携によって、労働者保護策が進められている。長期に及ぶ放射能汚染の除去作業は、連邦政府のエネルギー省と環境保護庁(EPA)と、ワシントン州で3者協定が締結されており、そのなかで進捗管理や住民参加の枠組みが整えられていることを明らかにした。地域開発の在り方や、原子力と地域社会との関係性についての知見は、学会発表や論文発表に加えて、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構の『将来ビジョン「JAEA 2050 +」』策定にかかわる「将来ビジョンアドバイザリ委員会委員」としてコメントし、一部が反映された。
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