本研究の目的は、自然災害が政府の質にどのような影響を与えるのかをデータを用いて実証分析することである。研究プロジェクトの最終年度である本年度は、これまで行ってきた研究を踏まえた上で、1)実証分析の再検討、および2)論文の作成を行った。 1)実証分析の再検討においては、自然災害が政府の質に与える影響を考える際に、携帯電話の普及が自然災害の被害に与える効果の重要性を再認識したうえで、携帯電話の普及が自然災害による死者比率(死者数/死者数+被災者数)に与える効果を、1980年から2003年におけるクロスカントリーデータを用いて検証した。その結果、携帯電話の普及は、自然災害による死者比率を有意に減少させる効果があり、特にその効果は地震などの地質的災害に対して大きく、またOECD諸国や高中所得国のほうが大きいことを示すものであった。これらの結果は、自然災害が政府の質に与える影響を考える際に、携帯電話が普及している国においては、相対的に自然災害による被害が軽減されるため、自然災害の発生による政府の質を向上させる機運が低下する可能性を示唆するものである。 2)論文の作成においては、自然災害の発生回数が政府の質に影響を与えるか否かについて、1996年から2015年にかけての4年間のクロスカントリーパネルデータを用いて検証した。政府の質に影響を与えるその他の要因として、各国の所得水準などの経済環境に加え、報道の自由度、政治体制、通信技術の普及度などを考慮し、固定効果推計を行った結果、自然災害の発生は政府の質を有意に高めるという効果が得られた。
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